今回は、クラウドファンディングで注目を集めた仙台にある会社JDSoundの代表である宮崎晃一郎さんに、これまでの製品と一線を画すポータブルスピーカー「OVO」についてお話しを伺いました。そこには、企画から生産まですべてメイド・イン・ジャパンで作る「日本のものづくり」の精神とこだわりがありました。
クラウドファンディングで話題に
――宮崎さんの会社についてお聞かせください。
私たち(JDsound)は、元々GODJという世界最小のポータブルDJ機器を手掛けてきました。GODJは2012年末に販売開始したものです。その後、後継機としてGODJ Plusを販売しました。GODJにスピーカーを足した製品です。その時に初めてクラウドファンディングに挑戦して、当時の日本の最高金額の5,300万円を達成しました。私たちが一番認知されたきっかけは「クラウドファンディング」になると思います。
メイド・イン・ジャパン
――「ものづくり」のこだわりは何ですか?
私たちのものづくりは、企画だけでなく、プログラムから製品として組み立て出荷するところまで、すべての作業を行います。部材によっては、(日本では生産していないため)海外製品も一部存在しますが、可能な限り国内製品を使い、「メイド・イン・ジャパン」で作るというのがポリシーです。
宮城県には、みやぎ工業会というものがあります。そこでは、宮城県内の様々な技術・知識を持った会社を紹介してくれます。そういった伝手を使い、数多くのご協力を頂きました。そういった意味でも「メイド・イン・ジャパン」であり、私たちは「メイド・イン・被災地」とも呼んでいます。
実際に石巻で津波の被害にあった工場を再稼働させる形で今回お持ちしたOVOは作られています。これもクラウドファンディングで資金調達し、すでに日本国内におよそ1万台出荷しています。今後はこれを海外にも展開していき、6月から台湾、7月はアメリカのクラウドファンディングをスタートする予定です。
ポータブルスピーカー「OVO」
――今回お持ちいただいた製品「OVO」について聞かせてください。
OVOが生まれた経緯は、前述のGODJを販売したところから始まります。GODJはスピーカーがなく、販売デモをする時に別途スピーカーを用意しなければならず、非常に手間でした。デモする時に良いスピーカーを使うとGODJよりもスピーカーに注目がいくこともあり、そういったデモやDJの人が簡単に練習出来るようにとGODJにスピーカーを内蔵するGODJ Plusの開発を始めました。最初は、スピーカー部分はある程度の音質で良いと考えて、ありものを付けたのですが、音が非常に悪く、製品としてバランスが良くありませんでした。そこで、納得のいくスピーカーを作ることにしました。
かなりの時間とコストをかけてGODJ Plusを完成させたところ、想像以上に良いスピーカーが組み込めて、GODJ Plusの購入者から「すごいスピーカーがついているけどあれはなんだ」「スピーカーだけを切り出して欲しい」といったご意見をいただいたことがきっかけでポータブルスピーカー「OVO」が生まれました。
――スピーカー自体は開発した経験はありましたか?
もともと半導体のエンジニアとして設計をしていたので、物理的なスピーカー構造は作ったことはありません。でも、スピーカーを作るときにどういった部品が必要かということは、経験で持ち合わせていました。その経験と色々な会社様からのアイデアやアドバイスを頂きながら開発を進めました。
開発の目途がたちOVOでもクラウドファンディングで資金調達をはじめたのですが、過去の実績も後押しして、非常に多くの方にご支援いただき、結果9,400万円の支援を得ることが出来ました。日本の最高金額には届きませんでしたが、無名ブランドのスピーカーに対して、これほどの金額を集め、話題になり、一定の評価を得たと思います。
製品完成に、若干スケジュールの遅延はありましたが、私たちとしても狙い通りの音と品質を達成でき、今現在も非常に多くの方にご愛用いただいております。
――具体的なOVOの特徴について教えてください。
一番の特徴は、「ブルートゥースではない」ということです。
――音質にこだわってそのようにしたのでしょうか。
実はスピーカーの「音質押し」は難しいです。すでにブルートゥースで音質の良いスピーカーはたくさんありますし、音質は言葉や文字では伝わらないため、クラウドファンディング向けではありません。そういったこともあり、セールスポイントとして「音質面」というのは最後にしました。
一番のセールスポイントは、「充電がいらないこと」です。
OVOには、バッテリーがなく、充電ができません。イヤホンやヘッドフォンと同じで、刺すとすぐに使えるというスピーカーになります。
私もたくさんのブルートゥーススピーカー持っています。でも普段使わないと使いたいときに充電がないということがよくありました。起動しても、インジケーターがなく、あとどのくらい持つかわからないということもあります。OVOにはその心配がありません。
――私もBBQに行った際、充電を忘れていて使えなかったということがありました(笑)
よくあることです。ブルートゥースのワイヤレスは便利です。しかし、実際は充電しながら使うので、ワイヤレスの意味はないというのがあります。OVOは、音質はもちろんブルートゥースより良いですし、遅延もないですが、一番わかりやすいポイントは、「充電しなくて良い」ということです。
他の特徴は、ペアリングの必要もありません。OVOは電源ボタンがなく、ペアリングボタンもありません。刺すだけで聞けるので必要ありません。ブルートゥースの場合は、電源押して、ペアリングして、機器を選ぶ、そうやってはじめて音が出ます。それと、人や遮蔽物などの環境によってブルートゥースは不安定な状態になることがあります。例えば、会議やパーティー、展示会等でブルートゥースが繋がらないことが良くあります。折角準備してきたのに繋がらないという状況も、OVOならUSB1本で解決できます。
充電・ペアリング不要、途中で途切れないという安心感。ブルートゥースが抱えているストレスを解決できます。一見時代に逆行しているようですが、実はすごく理にかなっているスピーカーです。遅延がないことも、非常に大きなメリットになります。映画やスポーツ観戦はもちろん、ゲームをやるときにブルートゥースのスピーカーは使えません。音楽ゲームは特に顕著です。
――音楽ゲームは微妙なズレも致命的になりますね。
もう一つ大きな特徴として、非常に声が聞き取りやすいということです。
意図してそう設計したわけではないですが、結果的にそういう特性が出ました。これは他のどのスピーカーにも負けないと思っています。まるでスピーカーに「喉」があるようだと言われることもあるほどです。
フルデジタルについて
――フルデジタルであることもその品質に貢献しているのですか?
はい。フルデジタルが一番貢献しているのは消費電力が低い、ノイズが少ない、LRの分離が良いことです。でも一番はUSBのバスパワーだけで、この媒体(OVO)からは想像できない出力が出来ることです。USBタイプのスピーカーでこれほど音を大きく出せる製品は他にはないと思います。
それには理由があります。そもそもUSBからとれる電力は、5ボルト500ミリアンペアと決まっており、2.5ワットしか取れません。通常のスピーカーで2.5ワットの電力供給では、小さい音しか出せません。それを解決したのが、「フルデジタルロジカル」になります。これにより、通常のスピーカーの約3倍の音が出せると言われています。圧倒的に音の大きさが違います。
――それはユーザにも恩恵がありそうですね。
現在、動画配信サービスがたくさんあり、気軽に映画が観られる時代です。しかしPCやタブレットの環境で聞くと、その機器のスピーカーに依存された音しか出ません。良い映画などをPCやタブレットの音で観るのはもったいない。そんな時にOVOに繋いでいただきたいです。
――端末の光る部分は何ですか?
ボリュームに合わせたり、レベルメータに合わせたり、低音、高音に合わせて光るLEDになります。クラブモードというのもあり、これはリアルタイムに周波数解析を行い、光に反映させています。このシステムは、私たちが長い間、DJ機器の開発を行ってきたからこそできたものです。
――スピーカーにLEDという個性を足した感じですね。
音を出すだけのスピーカーというだけではなく、中に優秀なマイコンを仕込んでいます。この後も色々なことが出来るようになる予定です。GODJと同様に(スピーカーなのに)ファームウェアのバージョンアップができるという特徴があります。ファームウェアの更新ができるスピーカーはなかなかないと思います。
私たちとしては、GODJから同様のことをしていて、そこからファンが増えてきているので、同じ仕組みを入れてファンを大事にしたいという想いがあります。すでに7回ほどバージョンアップしており、徐々に進化しております。
――購入後もバージョンアップしていくというのはうれしいですね。
実際にバージョンアップで音も良くなります。この先もいくつか考えがあるので、まだまだ進化します。買ったら終わりという製品ではないです。
GODJは2012年の年末に発売されて、GODJ Plusは2016年に発売しましたが、GODJ Plus用に開発した機能をGODJでも使用できます。同じファームウェアで動作するようにしていたからこそ、そういったことが可能になります。
モノのライフサイクルが短くなっている。
最近は、モノのライフサイクルが短いと感じています。身近な例ですとスマートフォンは、2年置きに変えることが一般化しており、長く使えて愛用できる製品というのが少なくなってきていると思います。そういう中で私たちは、GODJという7年前に発売したものでも、今でも同じように最新の機能を使うことができ、OVOに関しても長く使えるように設計しています。
スピーカーの寿命は、バッテリーで決まります。ブルートゥースのスピーカーは、バッテリーが切れたら終わりです。交換はできますが、会社によってはサポートしていなかったり、バッテリー交換費用が高額だったりします。OVOは、バッテリーがないので製品寿命はありません。最低でも5~10年は使えると思います。
――バージョンアップして新製品として売るという考えはないのですか。
はい、ファームウェアの更新で対応します。最初にご購入いただいたお客様は、一番重要なお客様であり、そういった方々に対して絶対にやらなければいけないサポートだと思います。そうやってユーザを大切にしてきた結果が、私たちのファンが増えてきた理由の一つだと思いますし、これからも続けていきたいです。おそらくそういうことをやっているのは、世界広しといえどもそんなにはいないと思います。
私たちとしては、そうやってファンを増やしていき、次の製品も安心して買っていただく。そういうことが私たちの成長にも繋がっていくのだと考えています。
――それが宮崎さんのものづくりの精神であり、ブレない考えなのですね。
「人生の宝物になるものを作る」と社内で良く言っています。ご購入いただいて、1、2年で捨ててしまうものではなくて、5年、10年と長く使っていただくものを作る。それが私たちにとっても、お客様にとっても幸せなことだと思います。
もちろんOVOにも寿命を決める要素はあります。バッテリーはないのですが、設定を覚えておくためにフラッシュメモリーが入っており、その書き換えを行う回数が決まっています。その頻度を調整しないとすぐに限界が来てしまうので、その回数をいかに抑えるかという計算をして、30年は使えるものを実装しています。どういう使われ方をされるかわからないので、毎日起動してもそのくらい持つようにということを考えています。
――ここまでお話しを聞いて、クラウドファンディングで注目を浴びた部分もありましたが、それはただの手段でしかなくて、本当に徹底したものづくりの世界だなと思いました。
クラウドファンディングは、先にお金が入るのでキャッシュ的には楽になります。それと、ブランドが必要ありません。ただし、「きちんと作れれば」ということが前提にあります。そこに挑戦するには自信と実績がないと、一発でダメになる可能性もあるので、危険ではあります。私たちもすでに4回挑戦していますが、最後までやりきれるメンバー(体力と技術)がなければやるべきではないと思います。そうでないと、こういった精密機器は炎上します。難しいですけど、それ以外は恐れずにチャレンジしていただきたいと思います。
不安はまだある
――JDSoundを起業された時に不安はありましたか?
不安は今でもあります。「クラウドファンディングで1億円集めて儲かっていますね」と良く言われます。でも実は作るのに1億円使っているので、ほとんど残っていません。これがソフトウェアなら違いますが、ハードなので作り続けないといけません。だから、お金がかかります。
――原価は下がらないのですか?
何十万台となると下がりますが、数千台では変わりません。ただ、私たちには金型と設計資産が残っているので、利益が出てくるのはこれからになります。額が大きいだけに、ちょっとした振れ幅で大きな損失になりますので、恐ろしかったです。
どんどん広がって、新しいファンを増やす。
最近OVOのLEDを変えられるようにユーザに開放しました。そうしたらユーザがこれで遊び始めて、LEDパターンを自作するようになりました。また、OVOにはイコライザーが内蔵されていて、細かい音の調整が出来るのですが、ユーザ同士で自分の設定をシェアできるように「EQシェアリング」というサービスを公開しています。
何ヘルツを何デシベルにすると良い音になると言われても普通の人はよくわかりませんが、それをWEBから簡単にシェアできることが評価されているようです。
――面白いですね。この曲はこのパターンが良いというのがあると思いますし。そういった他の人が作ったベストなパターンを共有できて自分でも聞けるって良いですね。
スピーカーでありながらSNSのような使い方もできます。これも世界初だと思います。単純に音を聞くだけではなく、LEDやイコライズをカスタマイズして、それをシェアしてみんなで聞ける。本当に今までのスピーカーの概念とは全く違う、少し変なモノを作っています(笑)
この先の展開は、LEDを使ってゲーム会社と面白いことができないかと考えていて、ゲーム会社さんが使えるようなライブラリーを準備しています。例えば、音楽ゲ―ムなどの当たり判定をLEDに反応させて光らせる、格闘ゲームならLEDがライフゲージになるといったことです。
――そういったことも可能なんですか。最初からそういった使い方は想定されていたのですか。
仕込みは入れていましたが、そういう風に使うという想定はなかったです。
他の展開としては、vtuberとコラボというのがあります。OVOならvtuberの本当の声に一番近いパターンをイコライザーの設定で流し込むことが可能です。OVOを使う人だけが「本当のこの子の声」を楽しむことができます。
――そうやって伝えたい音が指定できるというのは今までにないですね。
高齢者にも繋げていきたい
ハイパーソニックエフェクトというものがあります。人間の耳には聞こえないけども、周波数の高い音を出しておくことで脳の反応が変わるというもので、現在研究が進められています。それをOVOに適用できないか今考えています。OVOで聴くことによって、同じ音楽を聴いていても脳の活動は変わる可能性がある。つまり脳科学です。
今後のターゲットとして高齢者に注視していますが、ある研究結果で、補聴器を常時つけている人とそうでない人の認知症の進行速度には大きな差があると結果が出ていて、前者の方が圧倒的に進行しない。それは入ってくる情報量が多いからです。情報量が多い方が、脳が活動するので、それによって認知症が抑えられるらしいのです。
テレビは画面を大きくすることに特化して、往々にしてスピーカーは後付けになり音がこもりがちです。結果、高齢者は音が聞きとりにくい状況になる。OVOはこれを解決できる製品ではないかと思っています。OVOを使用することで高齢者の健康寿命を増やすことへのサポートになればと思います。
――最後に、今後ものづくりに挑戦していこうとする読者に伝えたいことはありますか。
安易に海外の工場に投げないでほしいです。確かに安く作ることができます。でも、ものづくりの本当の面白さはそこではなくて、自分で最初から最後まで1点1点確認しながら作っていく方が面白い。実際に私たちがそうやってきたからこそ言えることです。学ぶことも多いです。ぜひそうやってメイド・イン・ジャパンで挑戦してほしいです。
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