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創考喜楽

先人の知恵を拝借 故事百選 坂本宇一郎 著

善く游ぐ者は溺る

よくおよぐものはおぼれる・・・・・
ものごとが上手な人や、技能を一応修得した人は、そのスキルを過信することで、身を滅ぼしてしまうことがあります。得意の分野であるほど、慎重に行動し、失敗しないようにしたいものです。

 「准南子・原道訓」に「善く游ぐ者は溺る。善く騎る者は堕つ」とあります。泳ぎの達人は溺れることがないかといえば、そうではなく、水泳術の心得があるばかりに無理な遠泳に挑戦したり、知らない海で潮流に流されて、一命を失うことがあるのです。

 

乗馬の名手も、馬術に熟達しているから、曲乗りをしたり無理な障害を飛び越したりして落馬や大きな事故につながるといいます。
わが国の諺の中には、「弘法も筆のあやまり」「猿も木からおちる」「上手の手から水が漏る」などがあり、いずれも腕自慢にも失敗のあることを風刺しています。

 

「生兵法、大怪我のもと」というのは、中途半端に知識を持った人が、それを鼻にかけて行動すると失敗しがちであると戒めているものです。

 

「能のある鷹は爪かくす」のように、真の名人は、自分の技能を誇示しませんから、一見して常人と差がないように見えるものです。
この教えは、ビジネスマンにとって大いに参考になります。筆者は商社マンでしたから、会社に入ってから、英語以外の外国語や、貿易実務、経理の基本などを勉強しました。そして、実取引に参加して、国際取引を習熟するよう努力したのでした。

 

若年で、まだ知識・経験がないうちは、先輩の意見をうかがいながら慎重に仕事をすすめていたのですが、次第に馴れてきて自信がついてきた時点で、自分の判断で商取引を進めるようになり、結局ヒドイ失敗を味わいました。
先にあげた「生兵法、大怪我のもと」のとおり、会社の幹部には心配をかけ、商売の厳しさを体験したのでした。

 

自分の周囲を身回してみるとこれに類するような事例を多く見ることがあり、丁度、仕事が面白くなりかけたときが危険なようです。さらに、その道の熟達の士が意外な失敗をすることがまま見られます。

 

「原道訓」は続いて、「おのおの、その好むところを以て、反って自ら禍をなす」と述べています。好んだ道、得意とする技術によって、致命的な失敗をするものであると戒めた訓言は、他にも多く見いだすことができます。

 

「善く射るものは中野に死す」は射撃の名手は銃弾に倒れる機会が多いということを述べたものであり、「川立ちは川で果てる」は、川の早瀬をよく知っている人は急流に流されてしまうかもしれないということです。

 

善く游ぐ者は溺る