創考喜楽

ことわざ科学館

木に竹をつぐ

It means... ちぐはぐで調和がとれていないことのたとえ。

つぎ木による栄養繁殖

 

「ウリのつるになすびはならぬ」というのと同じで、ウリ科とナス科のようにもともと違った種類や不調和なもの同士を、無理に結びつけることをいう。竹は木よりむしろ草に近いから、木と竹はつぎ合わせることはできない。つぎ木は、同じ科の植物同士について行うものである。

 

つぎ木をすると、両方の茎の組織の傷がなおり、活着して、一つの植物体として生長を続けるので、古来、この方法により果樹や花木の繁殖が積極的に行われて来た。これをつぎ木による「栄養繁殖」または「栄養増殖」という。柿を作る場合、発芽させてそのまま大きくするとしぶ柿になってしまうので、必ずつぎ木をする。

 

果樹や花木類は、新しい品種ができても、その種子で増やすと、形や性質が個体ごとにばらばらに分かれることが多い。これは、他の品種の花粉でも受精する性質(他殖性)があるからで、種子は遺伝的に雑多なものになるのである。しかし、つぎ木で増やすと、栄養繁殖であるため、同じ遺伝形質をもつ個体を増殖させることにより、品質の性質を保つことができる。

 

また、つぎ木による方法は、ただ増やすことのほかに、ウリ科であるスイカやメロンの「つる割れ病」を防ぐ方法としても積極的に採用されている。つる割れ病は、つるが割れて、そこから先に養分を送ることができず、やがて、その株全体が枯れるという、大変恐ろしい病気である。つる割れ病の病原菌は土の中にいて、根から植物体に入っていくが、同じウリ科のユウガオやカボチャなら、根が強くて、つる割れ病にならない。

 

そのため、つる割れ病になる心配のある畑では、ユウガオやカボチャを台木に使い、これにスイカやメロンをつぎ木して苗を育てるという、風変わりなことをする。このほか、キュウリもカボチャの台木につぎ木することが多い。さらに、ナス科の植物同士のトマトやナスも病気を防ぐために、つぎ木で育てることが多い。

 

 

細胞融合

 

ところで、ジャガイモはナス科の植物であるので、ジャガイモの茎にナスのつぎ木ができる。この場合は面白いことに、地上にナスの実を作り、地中にジャガイモの実をつけることができる。さらに、一つのジャガイモの茎に、ナスとトマトの両方をつぎ木すると、地上にナスとトマトの両方の実をつけ、しかも地中にイモができるという変わった現象が起きる。

 

ただし、このようなつぎ木は、今日、バイオテクノロジーの一つの成果として注目される「細胞融合」とは別物である。細胞融合による同じナス科同士のジャガイモ(ポテト)とトマトの混合品種が「ポマト」の名前で人々の注目を引いた。

 

1978年にドイツのマックス・プランク研究所のメルヒャースが発表したもので、画期的な細胞融合による「細胞雑種」の誕生である。まだ実用化されていないが、これが植物の新品種開発のパイオニア役を果たし。その後、オレンジとカラタチで「オレタチ」が、また、白菜とキャベツで「ハクラン」が作られた。

 

 

十月の投げ木

 

なお、つぎ木のほかに、「さし木」というのもある。これは茎を直接、土中にさし込むもので、タネから育てるより、かなり早く育つ場合が多い。ヤナギの茎は、水でも土の中でも簡単に根を出すし、キクの栽培でも、茎をさし木する。わざわざさし木をするつもりでなくても、木は条件さえよければ、かなり容易に根づくことも多く、これをことわざで「十月の投げ木」などという。

 

旧暦の10月、つまり現在の11月は、落葉樹は葉を落としてしまい、身軽になっている。こんなとき移植のために根が傷んでも、葉が落ちて木の活動がにぶっているから枯れることはない。つまり、木を投げ出すように雑な植え方をしても、ちゃんと根づく。葉があると、そこで蒸散が起こり、それだけの水を根から補給しなければならず、また蒸散が起こっている間は、植物全体の新陳代謝が盛んであるため、根の傷みのダメージも大きくなる。