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第34回:スタンフォード大学 vs 一橋大学 この差は?
 ティナ・シーリグさんの『20歳の時に知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』という本があります。日本でもかなり売れた本なので、知っている人も多いかもしれません。(読みやすく、面白いので、読んでいない方はぜひ!)

 シーリグさんは、スタンフォード大学の医学部で博士号をとり、現在は、企業家精神やイノベーションを教えています。この本の中で、シーリグさんのスタンフォード大学での授業がいくつか紹介されています。その1つに、学生に5ドルを与えて、2時間でできるだけ増やせという授業があります。学生はグループでいろいろなビジネスを考えます。考えるだけでなく、実際にそのビジネスをやってみるのです。多いパターンは、宝くじを買ったり、洗車サービスをしたり、安く仕入れたモノを高く売るなどです。

  シーリグさんとはたまたま対談をさせてもらうチャンスもあったということもあり、一橋大学でも同じエクササイズをしてみました。
『20歳のときに知っておきたかったこと』
スタンフォード大学集中講義
著者:ティナ・シーリグ
出版社: 阪急コミュニケーションズ
 対象は、ビジネスを勉強している大学の1年生と2年生です。スタンフォード大学vs一橋大学です。

 この試みは、今年で2年目なのですが、現在までの結果はどうでしょうか。これまでのところ一橋大学の記録は6000円です。実際にビジネスをするのは、2時間以内というルールがあるので、まあまあでしょうか? それとも、物足りない?

 さて、スタンフォード大学の記録はどうでしょう。これは、650ドルだそうです。一橋との差は、今なら、円高の恩恵を被って、8倍ぐらいですが、1ドル100円の頃なら、10倍以上です。

 なぜこのような大きな差がついたのでしょうか。学生の質が10倍も違うのでしょうか。あるいは先生のせいでしょうか(これは認めたくないけれど)。

ただ、学生のグループが考えたビジネスを見ていると、スタンフォードと一橋でそれほど質に大きな違いがあるようには思いません(もちろん、学生のグループ間には大きな違いは出ます。上手くいくグループと全然上手くいかないグループがあります。)。シーリグさんの本に紹介されているようなビジネスは、一橋でも考えつくグループもあるのです。

 それではこの違いはどこにあるのでしょう。1つ大きな違いがあると感じたのは、価格づけです。日本の学生は、価格付けがものすごく“謙虚”なのです。良く言えば謙虚なのですが、悪く言えば、自分たちのビジネスの価値を正当に評価できていないということかもしれません。

 あるビジネスを思いつき、企業に交渉に行ったグループがありました。そこで、企業側からは「んー。1時間で一人あたり1000円から2000円ぐらいでどうですか?」というオファーを貰ったそうなのです。そこで、学生たちは「じゃあ、1500円で!」と答えたのだそうです。真ん中の額をとるのはいかにも日本人的です。でも、ビジネスという観点からすれば、相手が2000円までだしても良いとオファーしているのですから、「1500円で!」なんてありえません。

 学生にその理由を聞いたところ、「このビジネスは僕らにとってはとても簡単なんですよ。働く実際の時間なんて、10分ぐらいですよ。だから、2000円なんて言ったら、悪い気がしたんです。」と言うのです。「人が良い」と褒めるべきという考え方もありますが、これではスタンフォードの学生と同じようなビジネスを思いついたとしても、10倍もの差がつくはずです。

 より重要なのは、どれだけ強欲か(グリーディー)ではなく、自分たちのビジネスが顧客に提供する価値から、価格を考えるという点です。これは、日本のビジネス全般に言えることかもしれません。日本企業は、価格付けがどうも上手くないのです。そのため、利益率が低くなりがちです。価格をつけるときにはコストを積み上げて考えるのではなく、自分たちのビジネスが、顧客にどのような価値を提供しているのかをきちんと考える必要があります。

コストから考えるのか、価値から考え始めるかの違いは、価格付けの背後に隠れていますが、大きな差を生んでいます。価値づくりから、もう一度、プライシングを考えてみましょう。提供すべき財やサービスまでも変わってくるかもしれません。

※このエクササイズのミソは、ここでは秘密にしておきますが、どうしても知りたい人は、ぜひ一橋大学の清水ゼミに来てください(笑)。
≫≫ティナ・シーリグさんとの対談はこちらからご覧ください
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