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第27回:支えている人にこそドラスティックに偏った資源配分を
  資源もなく、世界でも最も高い人件費の水準に達し、しかも高齢化が圧倒的なスピードで進む1億2000万人の国。この国を長期的に住みやすく、豊かにしていくためにはどうしたら良いでしょう?

 この答えは1つです。一人一人の生産性を上げるしかあり得ません。じゃあ、どうやったら生産性は上がるのでしょうか? 

知識集約的な産業にシフトしていくしかありません。そこで、サイエンス型と呼ばれる産業の重要性が増してきています。サイエンス型産業とは、科学において生み出された知識が、製品やサービスに重要な影響を与えるような分野です。バイオや医薬、あるいはエレクトロニクスなどが代表的なサイエンス型産業です。

それでは、科学における重要な成果はどのように生み出されているのでしょう。実は、このプロセスはまだあまり解明されていません。それを解明すべく、一橋大学イノベーション研究センターでは、科学技術政策研究所と共同で、『科学における知識生産プロセスに関する調査』を行っています。
▲僕もちょっと出かけてきます!
「どこへ?」は来月のお楽しみです。

 この調査で、いくつかの重要なポイントが分かってきているのですが、その1つに、博士課程の大学院生やポストドクターの役割があります。科学的な知識の創出に、博士課程の大学院生やポストドクターが大きく関与しているのです。特に生命科学系においては、彼らの関与が大きい。しかも、重要な科学的な発見がなされているプロジェクトほど、若手の関与が大きいのです。当たり前のように思えますが、彼らの能力ややる気が、研究のレベルを大きく左右するわけですから、ものすごく大切なのです。

 ここで、大問題があります。現政権の若手研究者に対する政策が厳しいのです。研究の関係から、理系の大学の研究室にお邪魔することが多いのですが、多くの研究室から切実な声が聞こえてきます。これは、日本の科学技術の水準に長期的にはボディーブローのように効いてきます。とってもまずい。

もちろん、政府の財源には限りがありますから、資金をこれ以上投じるのは難しいかもしれません。また、研究者や大学を競争させることには大きな意味があります。ただし、日本のように一律で資源が削減されていくとなると、競争とは言えません。そもそもは、一律で資源を削減して浮いた予算を使って、大規模なプロジェクトを競争的に行う構想だったのですが、いつの間にか、大規模プロジェクトすらもカットになっています。これはとってもまずい。

イギリスでは、RAE(Research Assessment Exercise)といって研究のパフォーマンスを厳しく評価し、それによって大学への資源配分を決めています。大学や研究者はかなりの競争圧力にさらされています。このような“きちんとした”競争の仕組みがほしい。

 優秀な人材は、世界中で求められますから、日本にとどまる必要もありません。若手の大学院生やポストドクターも、この状況が続くようならどんどん海外に行った方が良いでしょう。円高と人件費高騰などにより、生産の空洞化が起こりました。今度は、知識の生産の空洞化です。

 みんなで一律予算削減なんてやっているヒマはありません。日本政府はGDPに占める研究開発投資を4%にすると言っていますが、どうせやるなら戦略的に日本の知的基盤を根本的に変える変革を。そして、そこで重要なのは、ばらまくのではなく(対してばらまけないでしょうけれど)、競争の成果に基づいたドラスティックに偏った資源配分です。


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