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第22回:なぜ子どもの迎えに遅れる親が増えたのか? 市場規範と社会規範の話し
 あなたが座っている電車に、年配の人が乗ってきました。席を譲ろうとした時に、「3000円あげるので、席を譲ってください」と言われたらどうでしょうか。多くの人は、お金はもらわずに、席を譲るでしょう。でも、なんだかイヤな気分になるかもしれません。

お正月にみんなのためにおせち料理を作ってくれた義理の母に、「ありがとう。とても美味しかったです。いくら払えばよいですか?」と言ったら、その瞬間にあなたの結婚生活は破綻してしまうでしょう。
▲うちの前のセミです。
ヨーロッパではセミはほとんど見なかったので、
「日本の夏!」といった感じです。

 なぜでしょう?これは私たちが2つのことなる規範の中で生きているからなのです。1つ目の規範は、市場規範と呼ばれるものです。会社からもらう給料や、普段の買い物での支払いなど、市場での取引を前提とする規範です。この規範では、フェアな取引が最も重要になります。公平な対価をできるだけ早く支払うことが重要です。

 もう1つの規範は、社会規範と呼ばれるものです。友人関係や家族関係、地域の共同体などを保つために重要な規範です。社会規範においては、すばやく支払うことはあまり重要ではありません。お正月におせち料理を作ってもらったとしても、翌日にご馳走をもっていかなければいけないということはありません。

 多くの場合、この市場規範と社会規範は衝突しません。義理の母がほしいのは、市場規範にのっとった感謝ではなく、社会規範上の感謝なのです。ただ、組織の中ではしばしばこれが混ざってしまうことがあるのです。とくに、市場規範の範囲が多くなってくると、社会規範との衝突が起こります。例えば、これまではチームの仕事が終わらないときには、他のチームも残業して手伝うことがあります。このようなことが慣例的になっている会社は少なくありません。しかも、サービス残業だったりするわけです。まさに社会規範によるチームワークだったわけです。ここで、一度でも残業代をつけて、対価を支払ってしまったらどうでしょう。次から、サービス残業をしてチームを手伝ってくれる人はいなくなってしまうでしょう。

託児所で、子どもの迎えに遅れてくる親が多かったために、罰金を導入したところがありました。ところが、罰金を導入することによって、かえって子どもの迎えに遅れてくる親が増えてしまったのです。それまでは、託児所の先生と親の間での社会規範による「遅れない」という約束で成り立っていたものに、市場規範を入れてしまったのです。それによって遅れたときの「後ろめたさ」がなくなってしまったわけです。「やっぱり罰金はやめました」と言っても、なかなか後には戻れません。

▲桶仕込み保存会のイベントにもだされていた澤乃井さんに行ってきました。
お酒の仕込みの工程や天然水の井戸などを見せてもらえますよ! 木桶仕込みのお酒を!
社会規範によって成り立っていたものに、一度でも市場規範が入り込んでしまうと、なかなかもとに戻ることができないのです。この社会規範と市場規範を上手く使うことは組織のマネジメントにおいてかなり重要な問題です。権限の委譲や、やりがいの付与、社会的な承認などは社会規範的な枠組みでの対価であり、人の動機付けをマネジメントする上で重要な仕組みです。最近は、市場規範の範囲が大きくなってきています。一度、安易に市場規範を入れてしまうとなかなかもとに戻れません。
あなたの組織は大丈夫ですか?


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