第14回:バランスがとれないからこそイノベーションが生まれる |
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イノベーションはある特定の時期や場所に多く見られます。例えば、産業革命期のイギリス。1760年からおよそ100年間の間に多くの技術革新が次々と生み出されてきました。これはまさに私たちの働き方や生活の仕方を大きく変えるような大革命だったわけです。しかし、その後、長い間イギリスから大きなイノベーションはでてきていません。イノベーションはあるところに群生するのです。
イノベーションがある特定の時期や場所に群生する理由には、インバランス(不均衡)が大きな役割を果たしています。市場の拡大や、技術の発展によって、市場と技術の間、あるいは技術と技術の間にインバランスが生じるときがあります。
イギリスの産業革命では、ジョン・ケイの飛び杼(とびひ)の発明によって織布の生産性が飛躍的に上がりました。そうすると糸が不足するようになりました。技術と技術の間にインバランスが生じたのです。
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▲またまた直島に行ってきました。
ここはアーキテクチャー自体が自然と一体になって、アートとなっているのですよね。 |
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そして、ハーグリーヴズのジェニー紡績機が生み出されたのです。これによって、糸を紡ぐプロセスの生産性が大きく向上しました。そして、糸が大量に生産されるようになると、カートライトは蒸気機関を使った力織機を発明し、織物の生産性をさらに上げたのです。イノベーションがインバランスを生み出し、そのインバランスがさらなるイノベーションを呼ぶプロセスがあるわけです。
アメリカの事例も見てみましょう。アメリカでは19世紀中頃の鉄道の発達によって西部に市場が拡大しました。そして市場拡大によって、それまでの生産技術では拡大する需要に追いつけなくなったのです。市場と技術の間にインバランスが生じたわけです。このインバランスを解消するために大量生産技術がつぎつぎと生み出されていきました。大量生産技術が生まれ、企業の生産量が拡大しました。また、企業は多角化によって事業領域も拡大させていきました。事業領域が大きくなってくると、それまでの職能制組織は効率性を失っていきました。今度は生産技術とそれを管理する組織の間にインバランスが生じたのです。このインバランスを埋めるべく、企業は事業部製組織という今では多くの組織で採用されている組織形態を創り出してきたのです。
インバランスはイノベーションのための大きなインセンティブを創るわけです。換言すれば、バランスが保たれていると、なかなかイノベーションは生まれません。そのため、企業ではわざと不均衡をマネジメントのデザインに入れるようなところもあります。ある程度の不自由さを組織に創り出したりするわけです。組織がもつ技術がターゲットとする市場と完全にマッチする場合には、イノベーションをわざわざ生み出すインセンティブはなくなってしまいます。そして、あまりにターゲットとする市場とベストフィットの状況が続いていると、知らない間に新しい技術をもった新規参入企業に競争力をとられてしまうこともあるのです。ハーバードのクリステンセンがハードディスクを巡る競争のケースで示したものがまさにこれです。
インバランスはイノベーションにおいて大きな役割を果たします。しかし、インバランスがあったからといってイノベーションが自動的に出現するわけではありません。そこにはビジネス・チャンスを見いだして、イノベーションを具現化する人が必要なのです。一見、バランスが保たれているような状況においてもインバランスを見つけ出し、イノベーションを生み出していくことこそ企業家の役割です。
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▲瀬戸内海や青空、島の古民家などが全てアートになっています。近代美術に興味があればぜひ!
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CO2削減25%といったかなり大胆な目標設定や、いつまでも続く円高、なかなか抜け出せないデフレなど企業が直面する問題はさまざまです。ただ、それらはまさに市場と技術のインバランスです。これらのインバランスをチャンスととらえることこそが、企業家の役割であり、資本主義における経済成長のエンジンです。
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