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第13回:「学校に入っても就職が保障されない」のはチャンス
 今月、国民生活基盤調査の結果が発表されました。貧困率はショックでした。日本の15.7%が貧困世帯という結果でした。2004年の比較だと、日本は14.9%でした。これはメキシコ(18.4%)、トルコ(17.5%)、アメリカ(17.1%)についで高かったのですが、さらに悪くなっているのです。OECDの30カ国の平均が10.6%ですから、日本の貧困世帯の割合は高い。

 一人当たりのGDPで見ても同じです。IMFのGDPの計算では日本は世界で23位です。欧米先進国は言うに及ばず、アジアでももはやシンガポールやオーストラリアなどにも抜かれているのです。OECD諸国の中では完全に貧しいグループなのです。

▲ヨーロッパに行ってなにより美味しかったのが、オリーブオイル。
とくにこのスペインのものは「そのまま飲める!」っていうぐらい美味しいの。見かけたらぜひ!
 ここで僕らはこの前の選挙で大きな“Change”を選んだわけです。まさに、もう一度、「坂の上の雲」を目指すわけです。民主党はいろいろな政策を具体的に動かし始めており、「やり方が性急」だとか「マニュフェストに賛成したのではなくて、自民党がイヤだったから入れただけだ」とかいろいろ反発もあります。でもこの反発は良いのです。変化が大きければ大きいほど、変革のスケールが大きければ大きいほど、痛みが伴います。イギリスのトニー・ブレア率いる労働党が保守党から久々の政権をとった時も、勢いにのってどんどん改革を進めたのです。彼の改革の多くは政権をとった早い段階で行ったものなのです。まさに鉄は熱いうちに。

 ダムの問題やら国債の発行やらいろいろ出てきますが、僕が「!」と思ったのは「教員養成6年制」です。これまで大学の学部で教職課程をとった人が先生になっていたわけですが、これを修士号をもった人に先生になってもらおうというわけです。フィンランドはこのシステムです。この6年制の導入はなぜか教員免許更新制廃止と一緒にでてきたということもあって、賛否両論あります。僕もこの制度には完全に賛成ではありません。ただ、僕が「!」と思ったのはこの6年制それ自体ではなくて、反対意見の中にあった1つの考え方です。

 教員養成6年制に対する反対意見の中に、「ただでさえ大学院生の就職が問題になっているのに、これ以上増やすのか」「子どもが少なくなってくるのだから、先生の就職先がないじゃないか」というものがあります。たしかに、文科省が大学院の拡充政策をとってから、博士号を取得してもなかなか就職先が見つからないという問題がでてきました。それでも、この考え方はおかしい。

 そもそも、日本は大学院生の数はかなり少ないのです。人口1000人当たりの大学院生の数は、日本は2.04人。これはものすごく少ない。韓国は5.98人、アメリカは8.53人、フランスは8.4人、イギリスは9.36人です。これではなかなか知識集約型産業で競争していくのは難しい。ヒトしか資源がない国にしてはあまりに少ない。

 アメリカにしてもイギリスにしても、学部生・大学院生を問わず激しい競争があります。就職を求めて激しく競争しているのです。「大学院に入ったは良いけど、就職がない!」なんてだれも文句は言いません。「学校に入れば、就職が用意される」というのは明らかに「日本的」な考え方です。そこはあくまで競争なのです。「学校に入らないと就職はないけど、入ったからといって就職は保障されない」のです。だからこそ、アメリカやイギリスの学生は競争する。競争があるからこそ、優秀な人材・社会で評価されるような人材がそこからでてくる。優秀な人材には当然高い給与が与えられる。だからこそ、さらに多くの人が競争する。

 日本は入試はありますが、入学してしまえば、競争はありません。しかも、今では大学は全員入学時代です。偏差値が高い大学に入るのは大変ですが、それでもアメリカやイギリスのトップ校に入るよりはかなり楽です。アメリカやイギリスのトップ校の場合、世界中から優秀な受験生が集まるわけですから。しかも、入ってからも切磋琢磨があるのです。 競争と言うと、「日本をダメにした新自由主義者め !!」なんて言われそうですが、僕は基本的に競争は大切だと思っています。とくに競争がなさすぎた領域が日本には多い。

 修士号や博士号をもった人材の社会での活用は日本ではまだまだ進んでいません。これは人材のプールがある一定数以上にならないとなかなか難しいでしょう。優秀な人材の供給がある程度安定的にあれば、必ず活用は始まります。高度な知識を持った人材を活用しなければ、国際競争で勝てないのですから。また、「大学(院)に行かせてもろくな人材が生まれない」と言う人もいるでしょう。これは明らかに大学の問題です。それでも、長期的に見れば、そういう大学は淘汰されるはずです。競争があれば学生は慎重に学校を選び、優秀な人材を輩出できない学校には集まらないからです。大学も競争すれば良いのです。学生にも大学にも競争がなさすぎた。

▲秋ということで、マロングラッセをつくりました。すっごい美味しい! 来年はもっと大量に作ろう。
  日本はもはや労働集約的な産業ではやっていけない。どうやって高度な知識社会にしていくのかは大きな問題です。高度な知識を持った人材をいかに育てていくかのデザインが必要です。今はそのデザインに、競争を組み込んでいく大きなチャンスです。

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