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第12回:ビジネスで社会を変える
 先日、大学生のビジネスモデル・コンテストの審査員をやってきました。中国、韓国、そして日本から大学生が集まり、それぞれの国から1人ずつで合計3人のグループになって、1週間泊まり込みでビジネスプランを練ります。ディスカッションも発表も英語です。厳しいセレクションを経て参加している大学生たちの英語や発表のレベルが高かったことにも驚かされましたが、もう一つ驚いたのが、「ビジネスで社会を変えよう!」という姿勢の高さでした。

地震や台風などによる被害に対するサービスを行うビジネスや、ベビーシッティングから介護までをつなぐ新しいビジネスなど社会を変えるアイディアがたくさんでてきたのです。グラミン銀行のムハマド・ユヌスさんやマイクロファイナンスのヴィクラム・アクラさんなどに代表されるようないわゆる「社会起業家」と呼ばれる人たちの影響も大きいのでしょう。この動きはアジアだけでなく、アメリカやヨーロッパでも広がりつつあります。実際、ハーバードの卒業生でNPOに就職する人も増えてきています。
▲国立の近くの神社には鶏がうろうろしています。とさかも大きくすっごくきれいなんですよ。
でも、近くによると結構怖い。
秋なので、鶏に負けず、僕もいろいろなところをうろうろしています。

このようなビジネスで社会問題を解決するという試みはイギリスやアメリカ、あるいは途上国で最初に始まったものでしたが、徐々に日本でも若い人のチャレンジが増えてきています。六本木で若いビジネスマン向けの塾のお手伝いをしているのですが、どうにかして日本を変えたい!社会を良くしたい!と思っている人がとても多い。巧みなマーケティングによって、本当にほしいのか、ほしいと思わされているのかの判断すらつかないような状態を創り出して消費を強要するようなビジネスのやり方から、少しずつ意識が変わってきたのかもしれません。

ビジネスは社会のニーズがなければそもそも成り立たないものであり、社会に大きく貢献するものです。したがって、まじめにビジネスをしていれば、それだけで大きな社会貢献ができるはずなのです。ただし、ニーズの掘り起こしがある側面において過度に行われてきたことについての反省と、実はビジネスでは見過ごされてきたニーズ(社会の問題)がかなりあるのではないかということがこのビジネスで社会を変えるという動きの背景にあります。

マーケットが存在しないと思われていたところに、マーケットを創る。新しい事業を創り出して、これまで就業機会に恵まれなかった人にチャンスを創る。どこで活かしたら良いか分からない能力と、どこに行ったら分からないニーズとを上手く結びつける。これらは全てイノベーションであり、ビジネスの仕組みを利用して社会を変革する可能性の高さを示しているものです。

もちろん社会を変える手段としてはビジネスだけでなく、財団やNPOなどさまざまな形態があるでしょう。それでも、マイクロソフトを捨てて、途上国の子どもたちに本を届けるルーム・トゥ・リードを創ったジョン・ウッドのようにビジネスの経験が生きる余地は大きい。

ただ、良心と能力のある人に頼っているようなシステムは、制度としては脆弱です。NPOや社会起業家の企業の多くは経済的にかなり苦しい。優秀な人材の良心に頼って運営しているところが多いのです。それではどうしても組織のデザインとしては弱い。優秀な人材に来てもらい、活躍してもらうためにはどうしてもしっかりとしたインセンティブのスキームを創る必要があります。
▲スポーツの秋です。国立市民テニス大会に出てきたのですが、となりでは小学生の少年野球大会がやってました。天気も良く、スポーツ日和でした。
 ただし、組織や制度ができあがってくるまでにはある程度の時間がかかります。これが根付かなければ、ある種のトレンドで終わってしまうかもしれません。企業でもNPOでも軌道に乗るまでがとにかく苦しい。どこにでも超えなくてはならない損益分岐点や構造的な死の谷があるわけです。市場経済では、モノやサービスを買う、あるいは寄付をするといった僕たちの普段の行為は投票行動とも似ています。つまり、社会を変革していく運動を歴史のある一時点の単なるトレンドで終わらせてしまうか、僕らが暮らすうえでの多様性を広げる大きな一歩とするかは、僕らの購買行動に大きく依存しています。少しずつ世界を変えよう!

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