第3回:弱い結びつきの強み 年賀状もわるくない |
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あっという間に師走です。この季節になるとみんな忙しくなるわけですが、僕も例外ではありません。妻が「ドーナツが食べたい」といえば近所のドーナツ屋さんに走り、「棚を作る」といえば近所のDIYに走ります。「なにか甘いもの・・・」とつぶやけば、つぶあんのあんパンを求めて街をめぐります。
こう考えると年末だから忙しいのではない気もしますが、そこに拍車をかけるのがクリスマス・カードと年賀状です。あんパン買ったり、ビールを飲んだりただでさえ年末は忙しいのに、クリスマス・カードや年賀状は面倒だな〜なんて思っていました。
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▲桶仕込み保存会のイベントに行ってきました。
これ、桶の底です。桶で漬けた味噌や漬物は美味しいし、日本酒はまろやか。まさに桶の底力です。 |
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ただ、「あ!年賀状も案外悪くない!」と思える研究が経営学や経済学、社会学から最近でてきたのです。数学や物理学からでてきたネットワーク理論が社会科学にも応用されるようになってきました。そこで、強い結びつきも大切だけれども、実は弱い結びつきの重要性はかなり高いということが分かってきたのです。
人や組織との結びつきには2つの種類があります。強い結びつきと弱い結びつき。強い結びつきというのは、人で言えば、家族や恋人、親友などです。組織だとお得意様などの馴染みの取引相手ですね。強い結びつきで結ばれた関係だと、本当に困ったときに助けてくれたり、信頼できたりするわけです。強い結びつきはとても大切です。金八先生に言われるまでもなく、人はお互いに支えあっているわけです。一人で生きていくのはなかなか難しい。
ただし、強い結びつきには大きな弱みがあります。強い結びつきはどうしても排他性をもっているのです。あかの他人が、いきなり「今日からあなたの家族!」とはいきません。結婚したり、養子に入ったりしても、ある程度の時間を一緒に過ごし、同じような価値観を共有することが大切なわけです。出会ったばかりの2人がいきなり親友になることもありません。ともに苦労した仲間の連帯感が強いのもこのおかげです。何らかの価値を共有したり、同じ経験をしたりすることが強い結びつきをはぐくむためには不可欠だからです。
連帯感を高め強い結びつきを創り出す社会的な仕組みもあります。たとえば、祭り。村の青年団が集まって苦労して、お祭りをやることによって、彼らは共通の体験をし、連帯感を強め、結びつきを強めていくのです。大学生のコンパで大量の酒を飲んで、みんなで騒ぐのも、新入社員研修で強烈な体験をさせるのも、すべて連帯感を高め、結びつきを強める機能があります。映画のアポカリプトにあったような部族の生贄を捧げる儀式も村の連帯感を強烈に強める社会的な仕組みです。強い結びつきがないと、どうしても戦争などに村民を動員できないのです。そして、ポイントは、これらの通過儀式をやっていない人は決して強い結びつきは持てないということです。排他性があるのです。
仲間同士にしか分からないようなコミュニケーションもあります。あだ名で呼んだり、略語を作ったり。女子高生の3M(マジで、モウ、ムリ)とかFK(ファンデーション濃いね)などですよ。このコミュニケーションを知っていないとその結びつきに入れない。組織でも同じです。なかなか飛び込みでは取引を始められない。それでも取引関係が長くなって、信頼関係ができてくれば、困ったときには多少融通してくれたりするわけです。強い結びつきは必然的に排他性を含むのです。逆にいえば、排他性がないとなかなか強い結びつきはできないのです。
この排他性があるおかげで、強い結びつきで結ばれた人や組織はどうしても固定的になる。固定的な強い結びつきがあるからこそ、生まれる知識というのもあります。オタクたちの間で共有されている情報はかなり濃いものでしょう。親方と弟子という濃密な関係を通じて伝承される匠の技、暗黙の知識というのもあります。
日本企業はこの強い結びつきの強みを思う存分発揮していました。終身雇用を前提にした雇用環境、長期的な取引慣行などの制度のもとで、外部の人にはなかなか分からない暗黙知がいたるところで生まれていたのです。ただし、環境の変化が激しさを増してくると、この強い結びつきの弱みが問題になってきたのです。
強い結びつきは必然的に排他性を伴います。メンバーはどうしても固定的にならざるを得ない。その結果、そこに入ってくる情報もどうしても同じようなものになってしまう。新しいところでとても大切な情報があっても、強い結びつきだけだとなかなかそれが入ってこないことがある。
そこで大切になってくるのが、弱い結びつきです。たまにしか会わないけれど、お互いを知っている。学校を卒業して以来、会っていないけど、どうしているのかなとたまに思い出す。このような弱い結びつきは、実は新しい情報が流れてくる源になるのです。しかも、強い結びつきでは入ってきにくい情報を運んできてくれるのです。同じような人や組織だけが集まるとどうしてもお互いの持つ情報が冗長になる。多くの選択肢や代替案、全く新しいアイディアなどはなかなか入ってこない。弱い結びつきだと、これらが入りやすい。排他性がない分、いろいろな別のネットワークに自分をつなげてくれる可能性もある。 |
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▲桶の力はいろいろスゴイのですが、桶を作れる職人さんが減ってきているのです。
どうしても便利さを優先させてしまいますが、残したい伝統や微妙な味わいってありますよ。
みんなで桶仕込の日本酒飲みましょう。 |
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社会学のネットワーク研究では、弱い結びつきをたくさん持っているほど、ステップアップとなるような転職の情報が入ってくるという結果も出ています。逆に、強い結びつきに頼れば頼るほど、チャンスは狭くなっていくというのです。強い結びつきで結ばれた人たちは同じような情報しかもっていないからです。
こう考えると、クリスマス・カードや年賀状は、弱い結びつきを維持する社会的な制度なのですよ。しかも、大切なのは、普段会わない「年賀状だけのつながり」の人にしっかりと年賀状をだしてつながっておくことです。わざわざ年賀状だけのやり取りで疎遠になってしまっている人とのつながりを、強いものにする必要はないのです。むしろそれを強いものにしては意味がない。弱い結びつきの維持のチャンスと考えるとクリスマス・カードも年賀状の機能はまだまだ捨てたものじゃありません。
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