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第2回:システム創造の競争
僕は阪神とテニスが大好きです。日本に帰ってきて、阪神の試合をライブで見られるのは何よりの喜びなのですが、ウィンブルドンやローランギャロスに気軽に行けなくなったのは残念です。

 それでも、「まあ、日本にだってテニスのプロの国際大会があるから、それを応援しよう!」と自分をなぐさめてヨーロッパから帰ってきたわけです。ウィンブルドンと比べると、雲泥の差ですが、そこはしょうがない。さっそく9月末のジャパンオープンから応援しようと思っていたわけです。
▲一橋大学の兼松講堂です。秋も深まってきて、大学は黄色や赤で染まっています。学生はそろそろレポートや学位論文でてんやわんやの時期です。
 僕は阪神とテニスが大好きです。日本に帰ってきて、阪神の試合をライブで見られるのは何よりの喜びなのですが、ウィンブルドンやローランギャロスに気軽に行けなくなったのは残念です。

 それでも、「まあ、日本にだってテニスのプロの国際大会があるから、それを応援しよう!」と自分をなぐさめてヨーロッパから帰ってきたわけです。ウィンブルドンと比べると、雲泥の差ですが、そこはしょうがない。さっそく9月末のジャパンオープンから応援しようと思っていたわけです。今年のジャパンオープンは大きな盛り上がりを見せていました。久々に日本のテニス会に現れたスターということで、錦織圭君が大きな注目を集めていたのです。世界からトッププレーヤーも来るし、僕もとても楽しみにしていました。

ただ、錦織君がリシャール・ガスケに負けたととたん、あれだけ盛り上がっていた報道は一切なくなり誰が勝ったのかも分からない。確かに彼はテニス会のホープだし、応援するのは良いけれど、当時はまだ世界で125位ですよ。一方で大会にはフェレールやロディック、ゴンザレスといったなかなか見られないような世界のトッププレーヤーが集まっていたわけです。錦織君が「雲の上の存在」と語っていたガスケなんて、ジュニアのころから天才といわれていたプレーヤーです。

 「日本のテニス界にスターが現れました!」なんて報道していましたが、本当は日本のテニスなんてどうでも良いといわんばかりです。世界のトッププレーが見られないのだから、スポーツの底上げなんてできないですよ。F-1だってそう。サッカーだって野球だって、日本人が活躍すれば見るけど、そうでないとほとんど関心なし。日本人(しかも、できれば美人やイケメン選手)がでてなければニュースとしての価値がでないのです。これは結構まずいですよ。

 さらに、もっと問題なのは、実は人材が流出しているということです。錦織君は日本人ではありますが、テニスはアメリカのアカデミーをベースにしている。この前ノーベル賞を受賞した南部陽一郎さんや下村脩さんと同じですよ。日本ではダメだから海外に出て行ったわけです。中田英寿だって、野茂英雄だって、あの新庄剛志だってそうです。それでも海外でがんばっている日本人を応援していると、日本ではタレントが育たなくなっていたり、優秀な人材が流出していたりすることをすっかり忘れてしまうのです。

同郷の人を応援するのは良いけれど、それだけでは“田舎”の発想です。もっと大切なのは場やシステムを創ることです。うちにはこんな仕組みがあって、世界中から人がどんどん来るっていう方が絶対面白い。だって、ほうっておけば、優秀な同郷の人はだんだんでていっちゃうんですから。

アメリカには世界中からトッププレーヤーが集まってきます。シャラポワも錦織君も、みんなアメリカのテニスアカデミーという切磋琢磨の場で磨かれていったわけです。アメリカは将来性のある若いテニス選手が集まる場を創ったわけです。そこではアメリカ人かどうかは関係ない。

 経済学では伝統的には国の経済力を測るのにはGNPが使われてきました。GNPを簡単に言えば、これは「日本人」が創った富です。海外で生まれた富も日本人が生み出したものならGNPに含まれます。GNPは長い間、国の経済力を測る指標として使われてきました。

それが最近では、GDPが使われるようになっています。今ではGNPはほとんど使われない。GDPとは国内で創られた富です。グローバル化が進む現在、GDPこそが重要になってくる。つまり、どこの人であろうが、どこの国の企業であろうが、国内の経済に貢献してくれればそれで良いという考え方です。GNPからGDPへのシフトです。

 この考え方からすると、いかに優秀な人材があつまる制度や組織を設計することが大切になってきます。優秀で、しっかり活躍してくれれば、どこの人でも構わない。日本人だから特別に応援するとか、日本人以外には興味なしというメンタリティではなかなか優秀な人材は流入してこない。

 人口がどんどん減っていく中で、僕たちが本腰を入れて考えるべきは優秀な人を引きつけるシステムですよ。世界中の人たちが日本に行きたいと思わせるようなシステムや制度、組織を創らないといけない。タレントのある日本人が世界でがんばっているのを応援するのも良いけれど、世界の優秀な人が日本に集まってくるようなシステムを応援するのも忘れてはいけない。GNP的思想を捨てて、システム創りの競争ですよ。これからは。


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