「多くのアメリカ人は、一個人としてどう見られているかは気にするが、アメリカ人としてどう評価されているかは、ほとんど気にしてないのではないか。」先日、マネージメント・コンサルタントのミーティングで隣りに座った男性が、雑談の中で言っていた。
日頃、米国人の国際感覚には疑問を持っていたし、世界各国で反米感情が高まる中、国際協調を唱えたケリー大統領候補が敗北宣言してからまだ日が浅いこともあって、彼のコメントは何の抵抗もなく受け入れることができた。

海外の視線を気にしないというばかりではない。外国のことにそれほど関心がないせいか、「世界音痴」の米国人にも時々出会う。戦略上、米国から最も重視されているアジアの同盟国日本についてさえも、一般米国人の知識はごく限られているようだ。
「日本人は皆着物を着ているのか」とか、「日本には今でも纏足の習慣があるのか」という質問には、「アレ?」という感じで、私の方で一瞬戸惑ってしまう。
しかも、こうした質問をする人が、アイビー・リーグの大学院で国際関係を専攻した人だったりすると、「チョットー」と、少し考え込んでしまう。インターネット時代の到来で世界はより小さくなり、日米間の相互理解も随分進んだ筈ではなかったのか。
外務省が実施した「平成15年度の米国における対日世論調査」によれば、80%の米国人回答者が、日本は「一般的に言って米国と価値観を共有していると思う」と答えている。英国の83%に次ぐ数字で、ドイツの74%や、ロシアの59%、フランスが56%よりも高い。一見、日米間の相互理解が随分進み、非常に緊密な二国間関係思わせるような数字だ。
しかし、この調査結果を見た時には一瞬目を疑った。そして少し心配にもなった。というのも、同じ質問を日本人にした場合、80%もの回答者が、米国人と価値観を共有していると答えるとはとても思えないからだ。新聞報道によれば、この結果について「外務省は、イラクへの自衛隊派遣など日本の協力が評価された結果だとみている」としている。しかしイラク問題一つを考えてみても、日本人の半数以上が、米国のイラク戦争や自衛隊のイラク派遣に反対だったではないか。イラクで人質にはなったが、無事帰国できた三人の日本人への反応も、日本人と米国人では、正反対だったではないか。とても、日本人と米国人が価値観を共有しているとは思えない。この米国人の日本人に対する感覚のずれは、下手をすれば、両国間の摩擦問題にも発展する可能性があるから、怖い。
それでは、こうした国家間の感覚のズレはどうしたら解消できるのか。最も効果のある方法は、自ら外国に行って異文化を体験することだと思う。野生動物保護を目的とする非営利団体に勤務する知人は、最近、海外出張すると反米感情を肌で感じるという。だから、出張先では、自分が米国人であることはまず口にしないし、どうしても言わざるを得ない場合には一番最後に言うと、笑いながら話してくれた。
また、バックパックにカナダ国旗を貼り付けて旅をしている米国人がいるという話も、少し前に聞いたことがある。カナダ人が、米国人と間違えらないように自国の国旗をバックパックに貼り付けて外国を旅するという話はよく耳にするが、米国人がカナダ人に成りすましているというのは、初耳だ。
近々、海外旅行を計画している年輩の米国人夫婦も、やはり、米国人であることが気になるらしい。自己紹介をする際には、国籍と共に、今回の大統領選ではケリー候補に投票したことも付け加えるつもりだと言っていた。
いずれも、米国人が外国滞在中、米国人であることをこれまで以上に気にせざるを得なくなった具体例だ。時節柄、米国人にとっては、ネガティブな内容のものばかりとなってしまったが、こうした体験を積むことで、米国人の国際感覚が次第にバランスのとれたものになっていくのだと思う。
ただ、問題は、外国に出て異文化に触れようとする米国人が意外と少ないことだ。異文化間コミュニケーションを専門にしているコンサルタント会社の調査によれば、米国人のパスポート保有者数は全人口のほんの13%に過ぎないという。世界のリーダー米国が持つイメージとは何かしら相容れない感じのする数字だが、これが米国の現実なのだろう。そういえば、バージニア州の田舎町出身で、現在ワシントン近郊に住む女性が、先日こんなことを言っていた。
「わたしの生まれ故郷の人々は、その町以外のことについて考えることはまずない」と。

Copyright by Atsushi Yuzawa 2004


株式会社アイ・イーシー 東京都千代田区飯田橋4-4-15
All Rights Reserved by IEC
本サイトのコンテンツの無断転載を禁止します