このように、人材育成に関しては様々な課題があります。
では、現在、日本人はどの程度の力を持っているのでしょうか。
残念ながら、このような実証的データは現在、存在しません。エビデンス(根拠)に基づいた政策を展開していくためには、このような調査に参加し、現況を把握することが必要不可欠です。
また、国際比較調査に参加し、他国の政策との比較が可能となることで、日本の現在の人材育成政策の強みと弱みが見えてきます。
では、調査の内容についてもう少し詳しくご紹介します。「成人力」というのは具体的にどのようにして調査するのでしょうか。
国際成人力調査では、16歳以上65歳以下を対象にして、3つの分野について調査を行います。@読解力、A数的思考力、及びBITを活用した問題解決能力です。
それぞれの具体的な内容や問題例については、以下の表1をご覧ください。 |
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◇表1:「成人力」の調査内容 |
読解力
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文章や図表を理解し、評価し、活用する力
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ホテルなどにある電話のかけ方の説明を読んで、指定された相手に電話をかけるにはどうしたらよいかを答える。 |
図書館の蔵書検索システムを使って、指定された条件に合う本を選ぶ。 |
商品の取扱説明書を読み、問題が起きた時の解決方法を答える。 |
数的思考力
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数的な情報を活用し、解釈し、伝達する力 |
食品の成分表示を見て、その食品の一日の許容摂取量を答える。 |
商品の生産量についての表を見て、グラフを作成する。 |
作成中の伝票を見て、商品の売上金額を答える。 |
ITを活用した
問題解決力
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コンピュータやウェブなどを使用して必要な情報を収集し、評価し、他の人とコミュニケーションをし、与えられた課題を解決する力 |
指定された条件を満たす商品をインターネットで購入する。 |
複数の人のスケジュールを調整したうえで、インターネットでイベントのチケットを予約する。 |
表計算ソフトで作成された名簿を用いて、条件を満たす人のリストを作成したうえで、そのリストをメールで送信する。 |
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職場や日常生活で本当に必要なのはこんなものではなく、コミュニケーション能力など、人といかにして接していくかだとおっしゃる方も多いと思います。
コミュニケーション能力の重要性ついてはOECDも認めており、@社会や個人にとって価値ある結果をもたらし、A様々な状況の重要な課題への適応を助け、B特定の専門家だけでなく、すべての個人にとって重要である力である「キー・コンピテンシー」の一つとして位置付けています。
「キー・コンピテンシー」は異質な集団で交流する力(コミュニケーション能力等)、自律的に活動する力(自分で計画し、実行する力など)、及び相互作用的に道具を用いる力(与えられた情報を活用する力など)の3つの分野に分類されており、国際成人力調査(PIAAC)では、主に3つ目の相互作用的に道具を用いる力について調べます。
コミュニケーション能力は、数値化して測定することが調査技術上難しいことや、国際比較調査においては、文化的な差異をどう考慮するかといった大きな課題があり、現時点では調査の対象には含まれていません。ただ、他国でもこういった能力を測定したいという希望は強く、将来的に全く可能性がないわけではないかと思います。
このような「成人力」の調査と併せて、学歴や学校外の学習活動への参加状況、職歴や収入等について聞く属性調査を行います。
「成人力」の調査結果と、属性調査のデータを合わせて分析をすることで、例えば次のような情報が得られることが期待されます。 |
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◇表2:PIAACから期待されるデータ |
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●諸外国と比較して我が国の成人力(職業生活及び社会生活に積極的に参加するために最低限必要な能力)がどの程度のレベルにあるのか。
●義務教育修了後、16歳から65歳までに「成人力」がどのように推移するか。また、「成人力」の維持・向上・衰退の度合いと日ごろの学習活動への参加の程度との関連性。
●「成人力」と職業上または日常生活において使用するスキルとの関係
●「成人力」と就業状況や所得との関連性
●「成人力」と社会活動への参加や信頼度等との関連性
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こうしたデータを十分に分析することで、小学校から大学までの教育で社会的・職業的自立に必要な能力の育成をどのように行っていくかなど、実証データ(エビデンス)に基づく効率的な教育政策を展開していくことができることとなります。
また、社会的・職業的自立に必要な能力の育成は教育政策の分野で完結する問題ではありません。このような調査結果を機に、教育政策と労働政策や産業政策との連携が拡大していくことが期待されます。
このように、PIAACから得られる調査結果は、政策にとって貴重な情報となるのはもちろんのこと、各企業の教育に携わる方々ににとっても非常に関心の高いものになると考えています。
調査対象者は住民基本台帳を用いて無作為に抽出されます。みなさんが調査対象に選ばれましたら、お忙しいとは存じますが、ぜひとも積極的にご協力いただけますと幸いです。 |
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●籾井 圭子 (もみい けいこ)さんプロフィール |
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所属: |
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生涯学習政策研究部
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職名: |
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総括研究官 |
研究課題: |
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・国際成人力調査(PIAAC)
・プロジェクト研究「生涯学習の学習需要の実態とその長期的変化に関する調査研究」(平成22年度〜)研究分担者
・プロジェクト研究「言語力の向上をめざす生涯にわたる読書教育に関する調査研究」(平成21年度) 研究分担者
・プロジェクト研究「生涯学習政策の変動とその評価に関する研究」 (平成21年度) 研究分担者
・エビデンスに基づいた教育政策決定プロセスに関する調査研究 |
主要職歴: |
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平成7年3月 文部省入省
平成13年9月 OECD教育研究革新センター研究官
(高等教育の国際化及び質保証、脳研究と教育を担当)
平成18年1月 文部科学省高等教育局国際交流室専門官
平成19年4月 〃 初等中等教育局教育制度改革室専門官
平成21年4月 現職 |
学位: |
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教育行政学修士 |
主要著書: |
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・Cross-border
higher education: an analysis of current trends, policy strategies
and future
・ 論 文 scenarios(共著)Observatory on Borderless Higher Education,
2004
・「言語力の向上をめざす生涯にわたる読書教育の総合的研究」-調査研究報告書(共著)国立教育政策研究所 平成22年 |
主要学歴:
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平成7年3月 慶應義塾大学法学部法律学科卒
平成11年6月 マギル大学教育行政学修士課程修了 |
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