第11回:街と大学と産業集積
シカゴは今、一番良い季節です。気持ちよく晴れる日が多く、イベントが目白押しです。特に、ラビニアという大きな公園で行われる音楽祭はGoodです。2ヶ月以上に及ぶ野外の音楽祭です。みんなでローソクを灯し、ワイン、それにサンドウィッチを食べながら聴くジャズやシカゴ・シンフォニーは最高です。しかも、学生はタダなのです。
ラビニアの音楽祭の他にも街をあげて盛り上げるイベントが数多くあります。ブルース・フェスティバル、ジャズ・フェスティバル、ゲイ・パレード、街中のレストランが腕を振るうテイスト・オブ・シカゴ。10月にはシカゴマラソンもあります。街を積極的に盛り上げていこうとしています。
これはシカゴだけではありません。ニューヨーク、ロサンジェルス、サンフランシスコ、ボストン、ヒューストン、アトランタ、シアトル、そして、シカゴなどそれぞれの街はそれぞれの顔を持ち、街を盛り上げようといろいろな趣向を凝らしています。また、それぞれの街はそれぞれの産業を持っています。半導体やITならシリコンバレー、映画ならロサンジェルス、ファイナンスならシカゴといった具合です。
ただ、これはアメリカに限ったことではありません。日本の街も負けていません。日本は歴史も長く、それぞれの街にはそれぞれの長い歴史がありあます。それぞれの街がもつ産業も異なっています。日本の郷土料理などは、アメリカと比べものにならないほど、多様性に富んでいます。
アメリカと日本の街で大きく違うのは、大学の役割です。アメリカの街には知識創造の中心となる大学があり、街の産業集積に大きな役割を果たしているのです。
ニューヨークにはコロンビア大学、ロサンジェルスにはUCLA、サンフランシスコにはバークレー、シリコンバレーにはスタンフォード、ボストンにはハーバードにMIT。シカゴにはシカゴ大学やノースウェスタンがあります。そして、大学のまわりには産業の集積があるのです。スタンフォードはシリコンバレーの知識創造で大きな役割を果たしています。MITIやハーバードは、ルート66の産業集積の中心的な役割を担っていました。また、最近ではノースキャロライナ大学を中心としてバイオ産業の集積が出来ようとしています。
もちろん日本にも街に大学はあります。ただ、その大学とその街の産業集積とはそれほど強い関係はないのです。東大阪や大田区では日本の製造業の基盤であった中小企業が集積しています。鯖江ではメガネ産業が、産業集積を形作っています。瀬戸ではセラミックの企業が群生しています。ただ、日本の産業集積には、大学は決して大きな役割を果たしているとはいえません。大学とまわりの街との間の相互作用は大きくはありません。学生のための食堂、居酒屋、古本屋などがある程度です。
アメリカでは、大学が街の知識の創造で重要な役割を担っています。優れた研究をしている大学のまわりには、企業が集まります。大学の研究室から多くの技術が生まれ、どんどんスピンアウトしていきます。大学と企業との共同研究がさかんに進められ、ベンチャー・キャピタルはビジネスチャンスを求めて集まってきます。コアとなる技術をサポートする企業も集まってきます。こうして産業集積ができてくるのです。大学は産業の集積において重要な役割を担っているのです。
今、経営学では産業集積が考え直されています。「競争力ある産業を作り出すためには、産業集積が重要である」というわけです。そして、どうやって産業の中で知識が創られていくのかということは、産業の競争力を考える上でも重要なポイントです。日本企業をとり巻く環境は大きく変化しています。これまでの日本的経営を続けていくことは難しくなっています。今後、日本の産業がどのように知識を創っていくかはチャレンジングな問題です。産業集積においては、日本の大学は大きな役割を果たしてきたとはいえません。現在、大学の独立行政法人化が議論されています。大学がそれぞれの特色を生かし、街の知識創造の拠点となるチャンスでもあります。
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