第10回:愛校心から見えるもの
アメリカと日本では、どちらの方が学生の愛校心は強いでしょうか?今月はアメリカの大学と日本の大学の愛校心について気がついたことを書きたいと思います。一緒に勉強し、遊び、同じ時間を過ごした大学にたいする愛校心は日本でも、アメリカでも大きな違いはないようです。ただ、その愛校心がどのように創られているのかについては違いがあるようです。
まず、アメリカの大学で目にとまるのはキャラクター・グッズです。Tシャツや、マグカップ、バインダー、ボールペンなどにはじまり、ゴルフボール、レターセット、傘、ベビー用品などなど、様々なグッズが売られています。学校のロゴの入ったTシャツやトレーナーは学生のファッションとなっています。街にはリア・ウィンドウに大学のロゴをつけて走っている車を良く見ます。大学のスクール・カラーや校章、学校のマスコットなどは学内のいたるところに見ることができます。図書館や、パンフレット、生協、書店、ジムなどありとあらゆるところで目にします。また、Business
SchoolやLaw Schoolなどの修士プログラムのような比較的短期間で終わるコースでは、学生に同じロゴの入ったものを買わせたりすることもあります。大学のロゴの入ったバインダーに授業で使う教材を入れていけるようになっているのです。
スクール・カラーや校章、マスコットなどは愛校心を作り上げるためにかなり戦略的に使われています。もちろん、おそろいの大学のグッズを持たせるだけですぐに愛校心が芽えるわけではありません。ただ、これらは、大学が戦略的に愛校心を創りだそうとしている一例です。
それでは、なぜアメリカの大学の多くは愛校心をわざわざ創り出そうとしているのでしょうか。これはアメリカと日本では大学のビジネスのモデルが違うことが大きな理由のひとつだと思います。アメリカでは、卒業生や企業からの寄付が大学の大きな収入源になっています。これに対して日本の大学は、受験料が大きな収入源のひとつです。この違いは大学の戦略に大きな違いをもたらしているようです。
アメリカの大学は受験生よりもむしろ入学者に目が向くことになります。いかにして入学者を満足させるかが寄付金に大きく影響します。愛校心を創り出すのも、入学者をいかにして満足させるかに対する戦略の一つとして捉えられています。これに対して日本の大学はいかにして多くの受験生を集めるかが重要なポイントとなります。予備校の偏差値のランキングに一喜一憂するのもうなずけます。愛校心をいかにして創りだすかということよりもむしろ、いかに多くの人を受験させるかが収支を増やす際のキー・ポイントになるわけです。もちろん、日本の大学も愛校心にたいして注意を払っていないわけではありません。例えば、アメリカ同様に、大学スポーツは日本でも盛んです。野球やラグビー、箱根駅伝などはかなり盛り上がります。大学はスポーツ推薦で優秀なアスリートを入学させています。スポーツでの活躍は、大学の知名度を上げるとともに、卒業生・在校生の愛校心をかりたてます。また、学園祭はアメリカの大学にはありません。学園祭も愛校心を駆り立てるもののひとつでしょう。ただ、日本の大学は愛校心に対する戦略についてはアメリカの大学よりもアドホックになされているという感じがします。
愛校心それ自体はアメリカの大学も日本の大学も変わらないと思います。自分の大学がスポーツで勝てば喜びますし、卒業生が活躍すれば嬉しいと思う気持ちは同じです。ただ、大学がいかにして愛校心を創りだそうとしているかについては大きな違いがありそうです。どちらが良いかは分かりません。愛校心はただ単に高ければ良いというものでもありませんし、戦略的に創ることが本当に可能なのかどうかも少し疑問です。
ただ、スクール・カラーや校章、キャラクターの配置などの一見ささいなことと思えるものに対して、アメリカの大学は日本の大学よりも戦略的に取り組んでいる気がします。経済学者の宇沢弘文は、「医療と教育は市場で取引するべきものではない」と言っています。ただ、アメリカの大学を見ていると、その競争力は教育をビジネスとして捉え、戦略的に取り組んできたところにあるような気がします。
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