第9回:文化の違いを超えるとき
シカゴには、チャイナ・タウンやコリアン・タウンをはじめとして、インド人街、パキスタン人街、ギリシャ人街、ポーランド人街、メキシコ人街、ベトナム人街など様々な国の人が集まる街があります。それぞれの街ではそれぞれの国の料理が食べられたり、それぞれの文化を楽しめたりします。
ただ、いろいろな国籍、人種が入り混じって一緒に生活をしているというよりは、生活空間はくっきりと分かれているという印象が強いです。中国人が多い地域、韓国人が多い地域、アフリカン・アメリカンが多い地域、スパニッシュ・スピーカーが多い地域などそれぞれです。住む地域も、買い物をする場所も、食事をするレストランも違います。そのため、多様な文化を楽しめる一方で、文化が交流しているという感じは薄いです。
これは、シカゴがローカルな都市だからかもしれません。シカゴは、ニューヨーク、ロサンジェルスに次ぐアメリカの大都市です。外国人の居住者数も多く、様々な人種が生活しています。ただ、インターナショナルな都市ではなく、あくまで保守的なローカル都市です。多様な人が同じ空間に生活しているものの、それぞれはくっきりと分かれているのです。サラダボウルのような感じです。国籍、人種の壁が入り混じるインターナショナルな都市というのは世界にも多くないのかもしれません。
大学にも国籍や人種などによってそれぞれのコミュニティがあったりします。ただ、大学は少し様子が違います。いろいろな国籍、人種の学生が一緒に学び、生活をしています。同じ授業をとり、同じプロジェクトで苦労し、同じジムで汗を流しています。同じレストランで食事をし、同じカフェでコーヒーを飲み、同じバーで飲むのです。大学では、異なる文化は交流せざるを得ないのです。これは学生ならではです。
いろいろな学生が集まると、そこでは異文化交流となります。これがなかなか楽しいのデス。ポットラックというパーティーがあります。参加者はそれぞれ何か一品持ち寄って、それを楽しむというパーティーです。いろいろな国の人がその国の自慢の一品を持ってくるので、テーブルは多様な料理で彩られます。中国料理、韓国料理、メキシコ料理、ブルガリアのお菓子、など美味しいものからあまり美味しくないものまでいろいろです。
また、異なる文化的背景を持つ学生が集まると、多様な見方も生まれます。例えば、2001年9月11日のNYでのテロやその後の戦争についての考え方にはかなり多様なものがありました。「アメリカが悪い」、「テロリストが悪い」などといった極端な二項対立から、「資本主義のあり方」や「民主主義の矛盾」、「宗教のあり方」などを指摘する意見などかなりいろいろでした。多面的な意見があったため、アメリカの過熱気味の報道やナショナリズムを煽るようなコマーシャルなどに対しては、多くの学生は冷静に見ていた気がします。
さらに、多様な国籍、人種が集まると、ステレオタイプ的な見方も薄れていきます。多様性が少ないとモノの見方はステレオタイプ的なものになりがちです。「中国人はみんな卓球が得意である」、「アメリカ人は楽天的でみんな明るい」、「日本人は体の半分が寿司でできている」などたわいもないものでおさまっているうちは良いのです。ただ、ステレオタイプ的な見方は、しばしば、「あそこの国の人は協調性がない」とか「あの人種は知的レベルが低い」などといった一義的な見方を招いてしまうことがあります。これは、差別やコンフリクトを引き起こす一因となったりします。いろいろな国、人種の中の、多様な人と接することによって、ステレオタイプ的な見方は薄れていきます。 もちろん文化的背景が異なる人間が一緒にいるわけですから、コンフリクトも起こります。ただ、そのコンフリクト以上に異文化の交流は楽しいです。いろいろな国の料理を楽しんだり、お互いの歴史について話したりすることなどは全て異文化の楽しみです。
ただ、異文化交流が本当に楽しいのは、文化の違いがなくなった時な気がします。もちろん、文化の違いを楽しむのも楽しいのですが、その先が一番楽しいのです。
文化の違いがあったとしても、感じるものは同じです。授業でのプレゼンテーションが上手くいけば嬉しいし、恋人にふられれば悲しいのです。友達と一緒に騒ぎたい夜もあれば、ゆっくりとお互いの将来を話したい日もあるのです。文化は違っても、同じ時代に生きている人間です。育った文化は違えったとしても、考えていることは実はそれほど大きくは変わらないのです。喜びを共有し、悩みを分かりあい、同じことで悩み、同じことで楽しいと感じるという普通のことが分かった時が一番楽しいのです。異文化交流は、文化の違いを超えたところが一番楽しいです。
性格や趣向の違いを文化の違いと考えることは簡単です。また、確かに文化の違いはあると思います。ただ、文化の違いばかりを強調しすぎると異文化交流の一番楽しいところを逃すことになりかねません。学生の特権を利用して、異文化交流を楽しんでみるのも良いですよ。
|