第4回:厳しいのか・厳しくないのか?大学のTQC
「入るのは難しいけれども出るのは簡単」。日本の大学。「入るのは簡単、出るのは難しい」。アメリカの大学。よく言われることです。
これは一概に正しいとは言えません。大学によっても違いがあるでしょう。有名大学に入ろうと思ったら、アメリカの方が日本よりも難しいでしょう。世界中からアプリケーションが届くわけですから。単に卒業することだけを目的に大学を選んだ場合には、アメリカも簡単かもしれません。
ただ、卒業に関しては、僕の経験の範囲ではアメリカの方が厳しいです。実際、キックアウトはわりと耳にします。僕の研究科では、最初の1年目が終わった段階で、2〜3人がキックアウトされます。2〜3人という人数だけを見ると少ないように思えますが、Ph.Dコースなのでそもそも全体の人数が少ないのです。1年目の人数が14〜15人ぐらいです。割合にすると1割から1割5分ぐらいの学生がキックアウトされてしまうのです。これはかなりのプレッシャーです。必然的にクラスがコンペティティブな雰囲気になることもあります。これはPh.Dコースに限ったことではありません。TAとして学部生のテストや論文などの採点や成績をつけていてもその厳しさは感じます。Ph.Dコースに限らず、学部も卒業は日本よりも厳しめです。
学生は大変です。もしも、事前に、1割落とされるということがわかっていれば勉強せざるを得ません。たとえ、教えられる内容が同じであったとしても、このプレッシャーがあるかないかで、学生のパフォーマンスは大きく変わってきます。なにせ最後の1割になってはいけないのですから。また、先生も大変です。成績に対するクレームは多いです。成績のガイドラインを明確にし、それに対してフェアーにかつ厳密に成績をつけなければなりません。
教育産業の製品は人材です。ヒトを創るのが教育産業です。いかに優秀な人材を創り出すかこそが産業の競争力を決めます。そして、アメリカは教育産業で完全に国際競争力を手にしています。この競争力を支えているのが厳しいTQC(Total Quality Control)です。一定の水準を満たさない学生(不良品)は卒業させない(世の中に出さない)のです。そして、この水準が多くの大学で一定に保たれているのが競争力のキー・ポイントです。
日本企業はこれまで厳しいTQCで優れた品質の製品を世界に供給してきました。不良品は驚くほど少なく、歩留まりは低く抑えられ、高い品質を維持していました。メイド・イン・ジャパンは優れた品質の代名詞となりました。しかしながら、このTQCは今のところ日本の大学ではあまり徹底されていません。クオリティー・コントロールの水準は大学ごと、学部ごと、あるいは先生ごとに決まっているだけです。良い先生にめぐりあえれば良いですが、さもなければ・・・というパターンは依然として多いです。
アメリカの教育産業を見てみると全般的に、TQCが日本の大学よりは体系的になされています。もちろんこの弊害もあります。ただ、良し悪しはあるにせよ、システマティックなTQCが現在のアメリカの大学の競争力を支える大きな力になっています。日本の唯一の資源はヒトです。いかに優れた人材を創っていくかは重要な問題です。アメリカはそのひとつのあり方を示しています。それを体験しに留学するというのもGoodです。
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