第5回:知の異種格闘技
メキシコ、中国、フィリピン、韓国、台湾、ギリシャ、トルコ、シンガポール、イギリス、カナダ、カメルーン、オランダ、ドイツ、スペイン、ブルガリア、インド、ベトナム。45カ国以上からおよそ1700人の留学生がノースウェスタンで勉強しています。
留学生が多いと様々なことが起こります。いろいろな国の美味しい料理が食べられたり、いろいろな国のあまり美味しくない料理を食べないといけなかったり。「ミニここが変だよ日本人」が開かれたり、ときには“ミニ”国際紛争の火種を作ってしまったりもします。いろいろな国の学生と会うことで、それまであった偏見やステレオタイプ的な見方もなくなります。世界のいろいろなところに人脈が広がっていくのも喜びの一つです。
留学生の数は学部よりも大学院の方が多いです。授業に出るとだいたい数人の留学生がいます。時には留学生だけの授業もあったりします。(もちろん、留学生のまったくいない授業もありますが。)同じ授業をとっていたとしても、留学生はバックグラウンドが違うので当然考え方も微妙に違ってきます。違うバックグラウンドを持つ人と議論するのはチャレンジングです。自分の考えをゼロから丁寧に説明しないといけません。時には、自分の考えの前提から説明を始めないといけません。
丁寧に自分の考えを説明していったとしても、思いもよらない質問がとんできます。授業はさながら知の異種格闘技戦です。例えば、周到に用意してきた自分の議論を丁寧に丁寧に説明したとします。つまり、こちらは「さあ、柔道です。どこからでもかかって来い!」と考えて、柔道だからこんな「投げ技」やあんな「寝技」がくるのではないかと考え、それらに対して周到な準備をしているわけです。そうすると、予期もしないような質問があちこちからとんできます。それは、まるで柔道着を着て待っているのに、いきなり後ろからムエタイ選手に蹴られるようなものです。そんな時に、「これは柔道だから、蹴るのは反則じゃん!」とは言えないのです。なんとか太刀打ちしていかなければいけないのです。学問の上では、なんでもありなのです。
これはなかなか大変です。時には、「あー。議論が全然進まない!」と思うこともあります。ただ、これはなかなか良いトレーニングにもなります。自分の意見の伝え方や議論の仕方についてより深く考えるようになります。また、異なるバックグラウンドを持つ人との議論によってこそ感じられる新しい考え方はあります。自分の意見の前提をもう一度疑ってみるきっかけにもなります。
留学生が少なく、バックグラウンドの共通性が高い場合には、ずいぶん状況は変わってきます。わざわざ説明しなくても分かっているところが多いため、議論は進みます。細かいところまで突っ込んで話をすることができます。ただ、共通のバックグラウンドが多いため、その共通の部分に対して詳しく議論するチャンスが少なくなってしまうこともあります。バックグラウンドの共通性が低い人たちと話をすると、それまで「もうそこは解決済み」って思っていたところが、実はまだまだ疑う余地があったりすることが分かったりするのです。そして、この知の相互作用によって、新しいイノベーションが生み出されてくるわけです。知の異種格闘技戦に参戦してみるのも悪くありません。
日本と比べるとアメリカの大学は留学生に対するサポートは多いです。語学のサポートやソーシャル・イベントなど留学生が勉強しやすい環境を整えておいてくれています。また、大学や授業のルールがはっきりとしているので、状況に不慣れな留学生でも決まりが分かりやすく、フェアーだと感じることができます。留学生が不当に差別的な扱いを受けているということを感じることはありません。
留学生がアメリカで果たす役割は少なくありません。世界各国から多くの留学生が毎年やってきます。卒業後、アメリカに残った学生は企業に就職したり、企業を興したりしてアメリカ経済を支えています。本国に帰った学生の多くは親米派として活躍します(最近ではアメリカをかなり客観的に見ている留学生が多いですけど)。少なくともThe American Way of LifeやThe American Way of Thinkingを身につけるわけです。これは非常に大きな意味があります。留学生に対する投資は大きな戦略的な意味も持っているのです。
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