09月24日の日本経済新聞で、「大卒採用「未達成」相次ぐ」という見出しが一面を飾った。折からの景気回復に伴い、大学・大学院卒業予定者への求人倍率は1.6倍という例年にない水準を記録した。求人数で見た場合は、バブル期1989年に匹敵するという。
久しく就職大氷河期が続いた。景気低迷による企業の採用意欲の冷え込みに加え、即戦力を求める採用意向がその原因と言われている。大学では盛んに就職セミナーが開かれ、企業のニーズに合わせた実践的な教育をする学部・学科がさかんに作られた。学生も大学も必死である。
一方、バブル崩壊以来、供給が需要を圧倒的に上回っているはずの新卒市場において、企業は採用の試行錯誤を続けてきた。リクルーターが大学から後輩をつれてくるという仕組みは一部の業種を除いて影を潜め、様々な評価手法の導入、通年採用、インターンシップ、RJPなど、多様な採用方法が導入された。その背景には人材の二極化があるという。優秀な学生とそうでない学生がはっきりと別れ、優秀な学生については激しい争奪戦が繰り広げられる。大企業への信頼が崩壊する中で、外資系によって優秀な新卒に法外な初任給が提示された金融業界はその典型である。加えて、採用人数の減少を根拠に採用への人員・予算は縮小、経営からは「量より質を」といった曖昧な要請が強まった。企業の採用担当者も必死だったのである。
だが、学生の二極化というのは本当だろうか。確かに優秀な人材は限られている。しかしバブル崩壊以降、学生の二極化を促す要因を考えても、具体的には思い浮かばない。二極化とは、企業が限られた新卒枠を絞り込みすぎた結果、様々な企業が学生に対する評価の視点を同じくするようになり、結果として優秀とみなされる学生が著しく限定された結果ではなかろうか。
採用コスト削減の一環で廃止されたリクルーター制など人海戦術の採用に代わり、人事部主導のシステマティックな人材評価システムが導入された。コスト効率的ではあるが、同一の業者が提供する適性検査や採用手法に依存する企業が増え、結果として同じ視点で学生を評価する企業が増えた。加えて「即戦力とは何か?」という問いがこの傾向に拍車をかける。
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即戦力を測ると称して、計数能力や語学力などの基礎能力を始め、大学での専攻と企業現場で求められる知識の転移可能性、果てはリーダーシップ経験など、採用で問う項目が多岐にわったことは想像に難くない。この様な項目を客観的に測る手法を持ち合わせていない企業は、やはり外部の評価手法を導入し、学生の即戦力度が同一の尺度で測られるようになった。
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さて、冒頭に紹介したとおり、新卒採用は二極化から売り手市場へとシフトした。ここで二極化、即戦力を前提にした採用方法はもはや通用しない。採用担当者にとっては頭の痛い限りであるが、筆者は以下の二つを提案する。
@ 二極化は幻想である。よって企業は学生の能力より会社との相性を中心に採用を行う
A即戦力化は採用後に行う
能力より相性とは何か。簡単に言えば適性検査や能力試験は最低限にとどめ、一緒に働きたいと思える人を採用するための仕組みに採用方法を改めるということである。また二極化を幻想と捉えた場合、採用の可能性がある学生も格段に増える。一方でこれは企業の採用マーケティングのターゲットが広がることを意味する。こう聞いて、「要するに人手と金をかけろということか」と思われる方も多いと思う。そうである。しかし人材採用は大変な投資である。ここに手を抜いてはいけない。
次に、「即戦力化は採用後に行う」だが、これは新人研修をいかに施すかということである。近年、即戦力として採用した新人社員の早期離職が問題になっている。能力は申し分ないが、会社にやりがいを見出せないなどの理由から、簡単に職場を去る若者が増えている。せっかくの虎の子を現場に任せたとたんに逃げられたとあっては、採用担当者は忸怩たる思いであろう。しかし、これは能力重視の採用の裏返しであり、更には社会人一年目において考えるべき将来の姿について、考える場やスキルを提供できなかった結果である。
次回、次々回のこのコーナーでは、上記の二つについて順次筆者の考えを述べていこうと思う。 |
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