創考喜楽

ことわざ科学館

あずきは無精者に煮らせよ

It means... 気長にじっくりと取り組む方が良いことの例え。

手間をかけるか時間をかけるか

 

ことわざには、このように人の性格と料理の方法を関連づけたものが多い。あずき(小豆)は炊き上がりにくいので、気長にじっくりと炊く必要がある。これを無精者にやらせると、ガスでも炭火でも、あまり手を加えずに放置するので、かえってほどほどのよい火加減を保てるというのである。

 

昔は薪を使ったので、薪が燃え、やがて燃えつきても無精者は手を加えず、そのうち炎はなくなり、熾火のような形で弱い熱になる。そのうち気がついて、また、薪をくべるといったことをし、そうこうしているうちに小豆は、やわらかく炊き上がるというわけである。

 

これを反対に無精者でなく、生真面目な人にやらせると、ひんぱんに薪の火加減をして短時間で炊き上げようとするが、要は時間をかけることが必要なので、かえって失敗してしまう。もちろん、今日の都会生活では、ガスや電気を使うので、ちょうどよい加減の弱火にできるが、それでも、あせっては小豆は炊き上がらないと知るべきである。

 

私は料理がするのが好きで、自宅でよく小豆を炊くが、ガス火を弱く保つと同時に、沸騰してしばらくたったらその湯を捨て、水を入れてまた加熱するといったことを繰り返す。こうすると小豆のあくが取れ、渋さも抜けて、おいしく炊き上がる。

 

魚は少なく、餅は何度も返せ

 

「魚は殿様に焼かせよ」というのもある。これも、あまりせっかちに表と裏を引っくり返すことをせず、殿様のようにおっとりと構えよ、という意味で、小豆の炊き方に似ている。魚を焼く場合は、何度もいじったり反転させると身がくずれるからで、片面をじっくりと焼いてから反転させると、片面の加熱によって身が固まっているので、意外にくずれにくい。

 

生の魚の身が、組織に水分が多く、その主成分であるタンパク質もやわらかい。それを、表面に焦げ目ができるくらいに加熱すると、水分が減り、タンパク質が凝固するので、扱いやすくなるのだ。もっとも、魚と違って、餅を炭火などで焼く場合は、表面をこがさないように、何度もひっくり返す方がよい。だから、餅を焼くには、殿様では不適当なわけだ。

 

ただし、今日ではオーブントースターで餅を焼くという手もある。オーブントースターでは、熱量を控えめにし、ヒーターと餅の間がかなり空くことになるので、パンを焼く要領で、餅もうまい加減に焼くことができる。