いそがばまわれ・・・・ |
近世初期に著されたという咄本「醒睡抄」のなかの説話から取られた諺です。原文には、「急がば回れということは、物ごとにあるべき遠慮なり。宗長のよめる『武士のやばせの舟は速くとも急がば回れ瀬田の唐橋』」となっています。
宗長は、室町後期の連歌師で、この歌の意味は、東海道を通って大津に行く場合の2つの経路について、琵琶湖を渡る船便と遠回り迂回陸路とを比較しています。
当時は一般的に早便としては、船便を使っていたようで、陸路を歩いていくより距離で2里も近くなったとのことです。しかし、湖上経路は比良の山から吹きおろす突風で船が難破する危険があったとのことで、瀬田の唐橋を渡った方が、安全確実だと歌ったものです。
また、「急がざれば、濡れざらましを旅人のあとより晴れる野路の村雨」という世渡りの訓戒として知られた歌が伝承されています。
中国の格言の「孫子」の兵法のなかに「迂直の計」というのがあり、わざわざ回り道を選んで、戦いを勝利にみちびく作戦について説明しています。
これは、「急がば回れ」とは訓言としてやや目的が違うようですが、人生を送るうえでの高等戦術となっているので、参考までに記してみましょう。孫子の教えの概略は「勝つためには、突進して、早く敵の陣に攻め込むことばかり考えずに、迂回すること考慮に入れながら緩急に手ごころを加えながら進軍することが大切である」ということのようです。
つまり、敵を攻めるときに、考えることなしに、無思慮に直線的に攻めないのと同時に、時間的にもタイミングをよく計って、なるべく最もよい時期にしかけることが肝要だと考えているのです。
俗言にも「急いては事をし損んずる」というのがありますが、あわててものごとを実行すると失敗に直結してしまうことがあるものです。場合によれば、「ゆっくり、急ぐ」ということが必要で、「ゆっくり仕上げた方が、失敗ややり直しが少なくてすみ、結果的には、早く出来る」と教えているのです。つまり、「急がば回れ」は距離を短くして縮めるということと同時に、タイミングを性急に早めてあせることを戒めているのです。
戦うという観点からいえば、思わぬ方向から予想しないタイミングに攻撃をしかけることになり、敵を倒す目的を早めるという結果につながるのです。