創考喜楽

ことわざ科学館

青菜に塩

It means... 元気がなく、がっかりしている様子。

青菜に塩

水を引きつける力

 

塩をかけられた青菜のようにしゅんとして元気がなく、沈んだ様子に使われる。「青菜は男に見せるな」ということわざもある。かさの高い青菜も塩をふりかけると、びっくりするくらいにかさが減るので、日頃、台所に入ったことのないケチな男性に見せると、女性が青菜を他に流用したものと疑ってかかる。つまり、あらぬ疑いをかけられるぞという人生の教訓である。こんなことで夫婦げんかになってしまっては、元も子もないわけだ。

 

では、なぜ塩をまぶすと青菜がしおれるのか。それは葉の膜(原形質膜)の浸透の結果である。「浸透」とは、膜や粉体層を通し、溶媒が拡散によって移動する現象である。一般に膜を使う。この膜(正確には半透膜)を境にして、たとえば水と食塩水など濃度の違う水溶液を入れると、溶媒である水は濃度の低い方から高い方へと移動する。この、水を引きつける力、正確には移動が終わったときの膜の両側の圧力差を浸透圧という。

 

青菜の場合でいうと、膜の外側にまぶした塩が溶質として周囲の水分でとけて、濃い食塩水になる。一方、膜の内側は、もともとの青菜の成分で、食塩水にくらべて低い濃度である。そのため、青菜の中の水分が外へ外へと出て、青菜がしおれていくことになる。つまり、このような膜には、両側の濃度の差により一方通行の性質があるわけだ。

 

野菜の葉は90%もの水分によりいきいきしているが、塩分が加わると浸透のために全水分の50%ほどが抜けてしまい、葉のかさはもとの半分ぐらいになる。しかし、この浸透の性質のおかげで、漬物にする野菜は水分が抜けて、代わりに拡散によって塩分が入り、おいしく味がつく。

 

梅酒と梅干し

 

また浸透をうまくコントロールすることにより、梅酒や梅干しを上手に作ることができる。たとえば梅酒を作るときは、普通の砂糖でなく、わざと氷砂糖を使う。氷砂糖はゆっくり溶けるので、リカー(焼酎)の中に溶けるスピードを抑えることができる。

 

梅の実を入れた初めのうちは、リカーは糖分の少ないアルコールの水溶液なので、梅の実にリカーの水分が浸透する。そのうちにリカーに氷砂糖がとけていくので、リカーの糖分の濃度が高まり、今度は逆に梅の実からリカーの方に向かって梅の汁(つまり梅のエキス)が浸透し、梅の実はしぼんで体積を減らし、梅のエキスのまじったリカー、つまり成熟した梅酒が出来上がっていく。

 

もし、リカーに普通の砂糖を入れると、すぐに溶けるので、初めからリカーの糖分の濃度が高まって、リカーがいったん梅の実に入ることがなく、エキスの取り出しがうまくいかない。一方、梅干しを漬けるときは、まず梅の実に針で何ヵ所かピンホールをあけて、一晩水につけ、水を実の中に含ませる。そのあと実を容器に入れ、塩をまぶす。そして梅の実に十分に吸い込んだ水分で実の外側の塩をとかしながら、梅干しに仕上げてゆく。

 

これにより、梅のエキスは実に残る。梅酒と梅干しの漬け方の差により、よくできた梅酒の中の梅の実は、干物のようにちぢんでいるが、梅干しは実がふっくらとしている。いずれも昔からの生活の知恵だが、現代科学の目で見ても、これだけリーズナブルである。