創考喜楽

ことわざ科学館

新米にトロロ汁

It means... 美味しいもののたとえ。新米にトロロは美味しいですよね

新米にトロロ汁

αデンプンとβデンプン

 

新しくとれた米を炊いたごはんの上に、ヤマノイモをすったトロロ汁をかけて食べると、口あたりとのどごしがよく、ごはんをかまずにツルツルと飲み込めて実においしい。普通なら、ごはんをかまずに食べると消化不良を起こすが、ヤマノイモには消化を助ける酵素が多く含まれているので、ごはんもよく消化されるという意味である。つまり、このことわざは相乗効果で物事が上手くいくこと、とも解釈できる。

 

だが、このことわざの意味が理解できても、現実には物事はほどほどが肝心であり、ヤマノイモを過信するのはよくない。ヤマノイモには消化を助ける酵素はたしかに含まれているが、特に多いというほどのものではないのである。それよりも、人間の唾液に通常含まれている酵素の方が、消化を助けるのには、はるかに役立つ。それにしても、同じ芋類でありながら、ジャガイモは生では食べられないのに、ヤマノイモが生で食べられるのはなぜだろうか。

 

よく言われているのが、コメ、ムギ、ジャガイモなど多くの食物に含まれているデンプンは、生では「β(ベータ)デンプン」なので、食べられないが、ヤマノイモは生でも「α(アルファ)デンプン」となっているので食べられるという考え方である。デンプンに水を加えて加熱すると、膨張または溶解して糊のようになる。これを糊化あるいはα化というが、この糊化とともにデンプンの粘りが増え、酵素などと急激に反応しやすくなる。つまり、加熱によって、消化分解されやすい状態になるのである。この状態のデンプンをαデンプン、元のデンプンをβデンプンという。

 

結局、「ヤマノイモは生のままでもαデンプンとなっている」という考え方は間違いである。トロロは、ごはんにかけることで口あたり、のどごしをよくしているだけというのが本当のところで、トロロ自体はあまり消化されていないと考える方がいい。消化の面で言うと、おろしガネやすり鉢ですって、みそ汁などに入れ、加熱調理して食べる方がいいと言えそうである。まあ、ヤマノイモを新米や麦ごはんにまぜるときも、そこにかけるトロロは少量だから、そう問題にすることはない。それよりも、ごはんもトロロ汁も、ともにデンプンのたぐいであるため、栄養のバランスから考えると明らかにかたよっており、むしろそちらを気にした方がいいかもしれない。

 

粘りの成分マンナン

 

さて、ヤマノイモの粘りの成分だが、ヤマノイモはデンプンのほかにもマンナンを多く含んでいる。このマンナン自体、粘りが多く、これがトロロにして食べやすい性質をつくっている。一方、ジャガイモは生で食べると非常に消化しにくいし、マンナンを含まないため、すっても粘りが出ないから、とても食べられたものではない。このことわざは間違いだということがわかったが、このことわざに、あまり手をかけなくてもおいしい料理を楽しめるという、今日のグルメにはない素朴な料理の通の意気込みも感じとりたい。