一国に2人といないと思われるような優れた人物のこと。そのような人材を見いだし、部下にしようとするならば、志を高くして、自分自身がその人の野望に応えるだけのものを備えることが大切です。 |
漢の高祖の軍司令をつとめた韓信は、「韓信の股くぐり」という故事でも知られている幅のひろい知識をもった人物です。高祖、当時の劉邦がまだ天下をとっていないころの逸話から取り上げられた故事を史記・准陰候伝から紹介しましょう。
劉邦の腹心であり、名宰相として知られた蕭何は、長びく戦闘に疲れ故郷へ帰っていく多くの武将の中で、韓信だけは引き止めたいと考え、そのあとを追いました。
劉邦としては韓信の実力を認識していませんでしたから、蕭何の行動を理解できませんでした。したがって、蕭何が説得して、ようやく韓信をつれもどしたときに、その理由を詰問したのです。すると、蕭何は「あなたが、中国の地方の王で満足しているなら、彼を用いることもありませんが、天下を取ろうと望まれるなら、彼を重用するより方法はないのです。まさに韓信は、国士無双と称するにたる人物なのですよ」と諭したのでした。劉邦も後に帝王となるような偉大な人でしたから、それを信じ、韓信を大将軍に任じたのでした。
この故事から、人材を確保するための2つの方策を学ぶことができます。
1つは、人を見る目に長けた人物を信ずること、2つめは自分の目標をしっかり見定め、その志を高くすることです。
人間は、自分の眼を信じ、それに頼りすぎるきらいがあり、特にビジネスの世界では、自分のグループをつくり、閥といわれるような人脈を利用することがありますが、このような場合は、有能な人材を敵に回すような事態をまねくことになります。
公平に人の価値や将来性を見抜ける人物の言葉を重んじていけば、おのずと人材を自分の周囲に集めることになるでしょう。
さらに、「みずからの志を高くする」ということも、部下を自分の部にとどめるための大切な点です。
劉邦のもとに「国士無双」と呼ばれるような英雄が集まり、蕭何のような名宰相が、彼の右腕となって全知全能を尽くして働いたのも、彼が漢中の王では満足せず、天下を掌握しようという志を抱いたからだともいえます。
現代の会社生活にあてはめれば、「部長位になれればいいや」と考えている人にはそれなりの部下しか集められないかも知れません。社長を目標とする人はそれなりの人生観によることであり、それが良いかどうか一概には言えないでしょうが、「俺が全組織を動かしてみせる」という気概と意見を持つことで、同じ志を持つ人を周りに集めることになりましょう。