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創考喜楽

先人の知恵を拝借 故事百選 坂本宇一郎 著

草木皆兵

そうもくかいへい・・・・・
自らの心に恐怖心があると、なんでも不利に見えてしまい、相手側にとって有利な条件ばかりが目につくようになりがちです。過度な先入観を捨てさる方がよいということです。

 「晋書・苻堅載記・下」の苻堅についての物語にでてくる故事です。
戦場に来て苻堅が城に登って四方を眺めたところ、水に生えている草木がすべて敵兵に見え、ますます怯えてしまったという故事からとられたものです。

 

自分の側に不安材料があったり、自信を無くしていると、なんとなく周囲環境がすべて不利に見えてしまうことを表現しています。原文は、「城に登りて、八方を望めば、山草皆人形に類す」というものです。

 

戦場の兵は、もちろん草や枝を身にまとい、服装には迷彩をほどこしたりして偽装しますから、一見すると兵員がいるのか本当の草木なのか分からなくなることも事実です。しかし、よくよく冷静に見れば、本物の草木か敵兵かの区別はつくはずです。恐怖心が強いと草木もすべて兵に見えてしまうということです。

 

「化け物の正体みたり、枯れすすき」の喩えがあるように、枯れすすきを妖怪と見間違うのも、おなじ現象といえましょう。「疑心暗鬼を生ず」「風声鶴悷」も同じような意味です。

 

「春秋左伝・荘公十四年」という項には「妖は人に由て興る」とあります。「人の心に隙間がなければ、妖怪変化の様な現象は起こってこない。人が守るべきことをきちんと守らず、不安を生ずるようなことをしていれば自然に怪しげな事象が起こってくるのである。したがって、奇怪な妖怪や不信な状態が生じたら、自らの心の隙間があるからだと考えた方がよい」というものです。

 

現代社会に、化け物や、ゴースト、幽霊が出現しないかというと、さにあらずです。「我利我利亡者」のような金銭に執着する人物が世をほしいままにしていると見えることもあります。また、権力をめぐって、みずからの説を曲げ、なにを主義主張としているのか分からないような政治家も見られるようです。
このような世相で自分を正しく保っていくためには、まずみずからの姿勢を正す必要があります。
平静に公平な観点で世間を見ることで、畏れたり、いやがったりしていた対象が、妖怪ではなくただのごく通俗的な人間であると見破ることができるのです。

 

自分を取り巻くすべての環境や生活条件が、自分にとって著しく不利に見えたり、周囲の人がすべて邪悪な人物に見えたりするのは、本人の心構えによることが多いと指摘しているのです。

 

ビジネスの社会では、ことさら客観的に自分の立場やあり方を直視しなければならないことが多いといえます。いたずらに悲観したり、また楽観視しすぎたりすることは好ましくありません。

 

草木皆兵