第25回:学校の二分化
現在、ブレアがかかえている政治問題の一つに教育再編があります。日本のゆとり教育でもありましたが、イギリスでも問題の一つとなっているのが学力の低下です。

 イギリスの中学生の5人に1人が、地図上でイギリスの位置を示せないと言う結果が最近の調査ででました。アメリカの場所がわからない子どもは4割にも上ったそうです。ロンドンの学校では、イギリスの首都がどこだか分からない子も少なくないそうです。日本でもゆとり教育の弊害などとして、子どもの学力が落ちていることが問題になっていますが、イギリスではさらに悲惨なことになっているのです。また、授業が進行できない学級崩壊も多くの学校で見られています。この学力や学級崩壊の背後にあるのは、学校の二分化です。これはかなり深刻です。

現在、ケンブリッジやオックスフォードなどのトップの大学に入学してくるイギリスの学生のほとんどは私立高校の卒業です。LSEでも公立高校卒業のイギリス人はかなり少数です。アメリカでも公立の学校からはハーバードやスタンフォード、MITなどにはなかなか入れない。

イギリスやアメリカで私立に子どもを通わせるためには日本とは比べものにならないほどのお金がかかります。できるだけ”良い”環境に子どもをおくために、裕福な親は子どもを私立に通わせます。エリートを育てるために、子どもはかなり勉強させられます。一方で、公立はほとんどタダです。お金持ちの子どもたちは私立に行くので、自然と公立にはあまり裕福ではない家庭の子どもたちがあつまります。そこでの教育は、簡単な計算や文字の読み書きといった最低限の基本的なことをフォローするので精一杯です。完全に学校の役割が二分化してきているのです。

 教育は社会の流動性を高める役割を担っています。貧しい家に生まれたとしても、がんばれば、報われる社会にするための大切な機関です。それが逆に所得の世代間移転を促進するようになってきているのです。親の所得が高くないと、高等教育が受けづらくなっています。日本でもこの問題は起こっています。大学進学者の親の所得を見ると、東京大学が最も高いのです。

 これは大きな問題でしょう。社会の流動性は経済の発展にとって重要な役割を果たしています。明治維新の後、日本が急激に産業化できたのも、士農工商を廃止し、社会の流動性が一気に高まったからです。下級武士や商人たちが新しいビジネスを起こし、三菱や三井といったビックビジネスを築いていったのです。いくら貧しい家に生まれても、イノベーティブでありさえすれば高い所得を得られるような仕事に就けたわけです。

僕の親友のガブリエルの実家は決して裕福ではありませんでした。石材屋さんだった両親は、一生懸命、子どもたちに勉強させました。公立に通っていたものの、勉強し、政府からの奨学金をとり、6人兄弟のうち、3人がアメリカの優秀な大学でMBAをとり、2人がこれまたアメリカのトップの大学で博士号をとったのです。みんな自分の好きな職につき、高給をもらっているのです。ブレアも安部首相も教育改革だと言っています。こんながんばれば報われるような、社会の流動性を高めるような教育システムにしてもらいたいです。そのためには、まずは、公立の学校をしっかり建て直さないと。学校の二分化はかなりまずい状況ですよ。

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