もう一つこのテロがショッキングだったのは、実行犯が自国民(イギリス人)だったことです。これまでのテロの多くは、外国人たちが犯人でした。しかし、今回のテロの実行犯たちは全員イギリス人だったのです。彼らはイスラム教徒であり、イスラム系の人たちが多く暮らす地域の出身でしたが、イギリスで教育を受けた若いイギリス人です。4のうち2人は19歳で、あとの2人も22歳と30歳です。彼らは移民の子どもたちです。イスラム教徒の家庭に生まれたり、イギリスに移ってから改宗したりしたイスラム教徒でした。彼らにはイスラム教徒ではないイギリス人の友達もいたでしょう。イギリス人として教育を受けて育った彼らが実行犯だったことは、大きなショックでした。新聞の見出しには、「Bombers are British(実行犯はイギリス人)」と大きく扱われました。
イスラム教の教えは詳しくは良く分かりません。また、組織の幹部たちがどのようなことを考えているのかも僕は分かりません。ただ、実行犯として使われるような若い人たちの心のどこかには、小さく積もり積もっていった被差別感があったのではないかと思います。イギリスで生まれたイスラム教徒の93%は自分のアイデンティティはイギリスにあると感じています。ただ、彼らイスラム教徒の若者たちは、差別や偏見などから高い失業率の中にいます。イスラム教徒の失業率は、他の宗教よりもかなり高くなっているのです。ここに彼らの一部が過激派に惹かれていった理由がある気がします。
ロンドンに暮らすイスラムの人のための雑誌は、「イスラムにもいろいろなヒトがいる。」「過激主義の一部のイスラムを見て、全てのイスラムを判断しないでほしい」と訴えています。ブレアも「憎むべきはテロリストであって、イスラム教徒ではない」と同じように訴えています。ただ、これがなかなか進まないのです。
イギリスでは、テロへの反動から、イスラム教徒に対する偏見が高まっています。テロの3日後には、イスラム教徒のパキスタン人男性が、イギリスの若者の集団に撲殺されました。モスクへの放火も相次いでいます。極右の英国国民党は、テロを利用し、移民の排斥を訴えています。
ある特定のグループを見て、彼らの人種や宗教を判断してしまうということはこれまでもいろいろなところで起こっていました。そして、そのたびに多くの犠牲者が出てきました。アメリカでの9/11の後は、アメリカでイスラム教徒が襲われました。「自分たちは過激派とは考え方が違う」と言っても、「同じイスラムだ」といって、店が襲われたり、火をつけられたりしました。同じようなことは日本でも起こっています。北朝鮮の拉致問題がクローズアップされた時には、朝鮮学校の子どもたちが日本人に襲われました。いきなり殴られ、服を切られ、リンチされたわけです。自分たちとは直接関係ないのに、その人種や宗教で判断されてしまっているのです。もちろん、実際に行動に移すのはごくわずかな人でしょう。ただし、ある人種や宗教、国籍で、個人を判断するということは僕らのなかにわずかながらもある考え方でしょう。そして、これが積もり積もっていったなかで、彼らに目を向け、彼らを同じ仲間として扱った過激派に、若いイスラム教徒のイギリス人が惹かれてしまったわけです。今回のロンドンのテロは自爆テロだったかどうかはまだ分かっていません。実行犯たちは往復切符を買っていたことから、自爆するつもりはなかったのかもしれないとも考えられています。ただ、いずれにしても、このようなつもり積もった感情がなければ、爆弾を背負って地下鉄には乗れないでしょう。
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