伯楽の一顧
人物を見抜くことで有名な人の知遇を得て、登用の道がひらけることをいいます。伯楽は馬を鑑定する名人であり、売れない馬でも、彼が道で一寸振り返って見ただけで、価格が10倍になったと伝えられています。
伯楽は、性は孫、名は陽、「列子」や「准南子」のような老荘系の書物に登場していろいろ逸話を残しています。「世に伯楽あって、しかるが後に千里の馬あり」のように伯楽に見いだされないと、名馬も名馬となれない、というようなものもあります。
秦の穆公は、自分の部下で馬の鑑定の名人である伯楽を大いに尊重していたのですが、彼も老齢となったため、秘訣を子供に伝えておくように命じました。ところが伯楽は、「私の子供は凡人でその素質はないと思います。馬を外見からみるだけなら、形や筋骨などで分かるのですが、千里の馬という名馬となれば、外見上の顔・姿・格好からでは判別できないのです」として、その能力を備えた人物として九方皐という人を紹介しました。穆公は、喜んで、彼に名馬を堆薦するよう依頼したところ牝の黄色の馬を指定してきました。早速それを取りにやらせると案に相異してその馬は牡の黒毛の馬でした。公は怒って伯楽を詰問すると「馬を観ず、天機を観る」と返事したとのことです。はたして、この馬は千里の名馬だったと言います。
人物を見極めるのに、外貌にとらわれたり、表面だけから判断する人が多いようです。
丁寧な物腰の人や、明敏な反応をする相手と面接すると、「たいへん立派な人物です」などとすぐに気に入って登用する経営者が多いのですが、そのような判定では才能ある大人材を獲得することはできないでしょう。
人を見抜くコツは、伯楽の言ったように、顔・姿・格好というような外見だけではなく、よく話を聞き、その志を知らなければならないでしょう。また、それぞれ人間は、運、不運の星を持っており、天機という言葉であらわされるように、「ツキ」を呼ぶことができるかどうかも大きな要因です。
人材を見いだすのは、持っている知識や学歴、キャリアだけを見ないで、ヒラメキのような潜在的な資質や、可能性、将来性も読み取らなければならないでしょう。しかし、そのうえに、天機を読むということになれば、特に人物評価眼を持った人でなければ不可能です。
しかい、そのような人を見極める能力を持つ人はめったにないといってもよく、伯楽が子孫によくそのコツを教えてほしいと依頼されたとき断ったのはそのためです。
さらに注目したいのは、特別の能力のある人物を信頼し、穆公に推薦した事実です。「牝・黄色の馬」と「牡・黒毛の馬」との相異は、九万睾にとっては問題ではなく、その馬の持つ天賦の運を読み切って、自信を持って指定したのです。この事情を伯楽はよくよく見抜いていたと考えます。
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