病は口より入り、禍は口より出ず
やまいはくちよりいり、わざわいはくちよりいず・・・・
病気の元は口から入ることが多い。また、不幸な出来ごとは口から出た失言から起こることが多いのです。口へ入る方も、口から出る方も十分注意しましょう。
中国の庶民のことわざ、つまり「俚諺」から採られたものです。わが国でも「口は禍のもと」とか「物いえば唇さむし」「きじも鳴かずば撃たれまい」など、いろいろなことわざがあり、口から出る禍についての注意を喚起しています。次元は違いますが、一度出た言葉は取り返せないということで「綸音汗の如し」というたとえがあります。君子の言葉は、汗が出たら戻らぬように、仔細なことでも言ったことは訂正することが出来ないという戒めです。
いずれにしても、ひと言余分のことを言ったり、会議で激論になって、いわずもがなの発言をしたために、一生を台なしにするような失敗につながることがあります。思わずつぶやいたひと言が、相手の耳に入ってしまい怒りを買うこともあり、軽口がまともに受け取られて仲違いの原因になることもあります。病気にならないように、食物に注意するように、口をつつしみ禍をまねかぬようにしたいものです。
同様な意味の「雉も鳴かずば打たれまい」は、余計なことを言ったばかりに災いを招いたというわが国近世の物語から出た故事です。
その出所は、「物言わじ父は長柄の人柱、鳴かずば、きじも射たれざらまし」という父おもいの娘が歌った和歌から出たと伝えられています。この意味は、「なるべく物は言わないようにしたいものだ。きじも黙っていれば猟師に見つけられることもなく射たれなくてすんだものを、いたずらに鳴いたために射たれてしまうことになる。父が長柄大橋の建設の時に人柱の建議をしたばかりに、自分が犠牲になってしまったのは、かえすがえすも残念だ」ということになります。
つまり、津の国の長坂大橋建立の時の言い伝えとして、「人柱を立てれば、難工事もかならず成就す」と奉行に申し立てたばかりに、言い出した本人が人柱になってしまったということです。「口は禍のもと」という訓言の典型的の例ともいえましょう。
この物語のしめくくりは、娘が堅く口を謹んだおかげで、良縁を得て幸福に暮らしたということになっています。
ひと言多いために、サラリーマン生活を失敗した例は、身辺にも少なくありません。宴席でお酒が入っているとき、無礼講でなにを言ってもよいなどと上司の許可がでていても、ふざけて唱った「かえ歌」の一節が上司をひどく傷つけ、そのために優秀な人物が、一生うだつが上がらなくなったケースもあります。
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