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第48回:お客様のために製品やサービスを創り込むことについて
  「お客様の声を丁寧に聞き、徹底的に製品やサービスを創り込む」ことこそが大切だと言われることがあります。特に、営業が強い日本企業からよく耳にする考え方です。でも、本当にこれで高い付加価値が生み出せるのでしょうか。

 スターバックスに何がほしいかを少し考えてみてください。大学の学生たちに聞いてみると、「コーヒーが高いから、せめて180円ぐらいにしてほしい」とか、「パスタぐらい食べれるようにしてもらいたい」とか、「急いでいる時にテイクアウトを早くできるようにしてもらいた」などという声が聞こえてきます。これらは、大学生でなくても、社会人でも主婦でも、わりと多くの人が持っている「顧客の声」です。
 もし、スターバックスがこれに応えたらどうなるでしょうか。あっという間に、中途半端な喫茶店、あるいはどこにでもあるファミリーレストランのできあがりです。これでは高い付加価値は生み出せないのです。スターバックスは、顧客の声に応えていないのです。正確に言えば、ターゲットする顧客は誰かをしっかりと考えた上で、その人たちへの価値を高めることを考えているのです。

 高級なすし屋も同じです。そこにはメニューはありません。カウンターに座ると、「お飲み物は何にしますか?」と聞かれるわけですが、初めて行く人には、何があるのかも、いくらするのかも分かりません。メニューが貼りだしてあり、値段も書いてあるほうが、お客にとっては便利なのです。しかも、メニューを貼りだすなど、店側にとってはコストはたいしてかかりません。それでも、わざわざメニューなど張り出さないのは、自分のお店に長く来てくれるであろう客を選別しているわけです。食べログなどで検索してくるお客は、すぐに次のお店へと流れてしまうわけです。

 もちろん、特定の顧客のみに製品やサービスと創り込みすぎると、2つのリスクがあります。最初のリスクは、そのお客がいなくなったら、ビジネスは立ち行かなくなってしまうということです。日本の半導体は、お客である電機や自動車メーカーに対して徹底的にカスタマイズをしていました。お客ごとに創り込みをしていたわけです。その結果、ある時をさかいに、お客が全然いなくなってしまったのです。汎用品の半導体の性能が、カスタマイズされた半導体に追いついた時に、一気にそれまでのお客が離れていったのです。2つ目のリスクは、特定の顧客のために自社の製品やサービスを創り込みすぎると、その顧客に利益をすいとられてしまうという点です。特定の顧客に依存しすぎるビジネスは、どうしても顧客に「買い叩かれてしまう」のです。

 全ての顧客の声をきいていては、中途半端なものとなってしまいます。しかし、特定の顧客の声に忠実すぎると、リスクもあります。ここに難しさがあります。製品や事業戦略を考えるマネジメントの腕のみせどころとも言えます。「お客様の声を丁寧に聞き、徹底的に製品やサービスを創り込む」という営業の声が大きい会社の人は、ぜひ考えてもらいたい問題です。コンセプトは何ですか。誰が本当の顧客ですか。


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