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第25回:あの山に登っていたはずだけど、着いたら全然違うところ 高いセレンディピティ
 一橋大学イノベーション研究センターでは、「科学における知識生産プロセスに関する調査」を行っています。日本の科学者1万人ほどを対象に質問票調査を行い、どのように科学におけるブレークスルーが生まれてくるのかを分析しています。このタイトルからするとなんだか難しそうなのですが、ポイントは、どうやったらサイエンスにおける良い成果がでてくるのかを考えるためのリサーチです。

 いろいろ面白い発見がある調査なのですが、その1つに、セレンディピティがあります。セレンディピティとは、本来の目的ではなかったものを見つける能力です。この調査では、科学者に、「本来、追い求めていたものとは違う研究成果がどの程度でてきたか」を聞いたのです。その結果、全体として7割を越える科学者が、本来の目的とは異なる研究成果にたどり着いていることが分かったのです。つまり、ほとんどの研究プロジェクトにおいて、目指していた目的とは異なる成果が生まれているのです。

 これは科学においては、成果を事前に予測することはかなり難しいことを示しています。これはイノベーションにおいても同じです。どのようなイノベーションが出てくるのかはなかなか事前には予測することは難しいのです。

 より重要なのは、より良い成果につながるようなセレンディピティを発見することです。これはビジネスの世界でも全く同じです。あるプロジェクトを開始してみると、次から次へと想定外の発見があるのです。そこで、重要なイノベーションへとつながるタネを見つけられるかどうかが勝負を分けるのです。

 技術の複雑性が増している現在、事前に結果が容易に予測できるプロジェクトからは大きなイノベーションはなかなか期待できません。また、市場の不確実性も増しています。なかなか事前に自社の製品やサービスがどのように消費されるかは分からないのです。最初に携帯電話にカメラがついたときには、海外のメディアからは一斉に笑われたわけです(最初のカメラ付き携帯はたしか三洋電機のPHSだったはずです)。でも、今では、写真の共有サイトのフリッカーに投稿される写真で最も大きなシェアをしめるのは、iPhoneで撮られた写真です。誰がこの状況を予想したでしょうか。
▲吉祥寺にキャベツの山です。
ハロウィン!

 ずっと同じ山を登っている企業は少なくなってきています。ある山に登っていたと思ったら、実は、全然違う場所に行き着いていたということも珍しくありません。むしろ、そちらの方が多いぐらいです。柔軟性がますます重要になってきています。また、セレンディピティが重要になってくる場合には、できるだけ多くのモノを試して、大切な山へと結びつきそうなモノを残すという仕組みをどのように組織に(あるいは制度として)構築するかが大切になってきます。

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