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第20回:どっちの『エコノミスト』を選びますか? |
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経済誌の『エコノミスト』の購読において3つの選択です。
@ウェブ版:年間購読 59ドル
A印刷版:年間購読 125ドル
B印刷版+ウェブ版のセット:年間購読 125ドル
あなたはどれを選びますか?
これは行動経済学という比較的新しい経済学の分野で行われた実験です。多くの人は、B印刷版+ウェブ版のセットを選んだのです。この実験が面白いのは、@とBの選択肢のみが与えられたときには、かなりの人数が@を選んだという点にあります。つまり、Aの125ドルの印刷版という選択肢を与えられると、本当ならば@のウェブ版が良いと思っている人が、Bの印刷版とウェブ版セットで125ドルへと選択を変えたのである。
こういう例はいろいろあります。高級レストランで、最も良く出るメニューは、メニューリストの中で2番目に高いものです。つまり、戦略的には、一番食べてもらいたいメニュー(あるいは一番利益が出るメニュー)よりも高いメニューをわざとリストの載せておけばよいわけです。これを「おとり戦略」とも言います。本当は30インチで良いと思ってテレビを買いに行っても、店頭で40インチを見て、37インチを買って帰ってしまった人は少なくないでしょう。
それではなぜ人は「おとり」にだまされてしまうのでしょう。行動経済学者のダン・アリエリーは、人間はどうしても比較がラクな方と比べて意志決定をしてしまう傾向があると言います。
例えば、今の給料に満足していたとします。しかし、全員の給料の情報を見たとしたらどうでしょう。同期入社の人が自分よりも少しだけ給料が良かったとしたら、それまで満足していた給料ではもう満足できなくなります。自分がカローラで満足していたのに、友達がみんなメルセデスに乗っていたら、やっぱり自分はカローラでは満足できなくなってしまうのです。どうしても、人は目に見えやすいところで比較してしまい、それが自分の意志決定に影響を与えてしまうのです。
ダン・アリエリーは、これを相対性の問題と呼んでいます。人間はなかなか相対的にしか意志決定をできず、その比較対象は、ついつい目に見えやすい周りにあるモノになってしまうと言います。つまり、下の右の図のようにまわりに大きな円ばかりがあると、どうしても自分が小さく見えてしまうわけです。女性誌にありがちな「私の方が幸せ!」競争に巻き込まれてしまうのです。
「おとり」にまどわされず、相対性の問題からのがれるには、人はまわりの比較しやすいモノとのみ比べがちであるという性質を理解した上で、「大きく見える」ようなものを自分の周りに意識しておかないようにするしかないといいます。数千円のデジタルウォッチで良いと思っていても、周りがロレックスだと、どうしてもそれが比較の対象になってしまうわけです。それを十分理解して、右側の図のような状況に身を置かないことだとアリエリーは言います。相対性の連鎖を絶つわけです。消費者としては、「おとり」に混乱されないようにしないといけないのですが、企業としてはどんどん相対性の罠を使った戦略を打ってきます。まさにAの印刷版:年間購読125ドルがおとりなのです。
あなたはどの『エコノミスト』を選びましたか?
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