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日本社会はストレスに満ちていると思われています。本当なのでしょうか。ISSP国際共同調査の結果(対象32か国)からOECDに属する21か国を取り出してグラフにした2つの図をまずご覧いただきたい。
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図1 日本は仕事のストレスの少ない国である(OECD諸国比較) |
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(注)「いつもある」「よくある」「ときどきある」の比率の合計(カッコ内の数値)でソート
(資料) ISSP(International Social Science Programme) Work Orientations, wave III (2005) |
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図2 日本は仕事のストレスの多い国である(OECD諸国比較) |
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(注)「いつもある」の比率(カッコ内の数値)でソート
(資料)同前 |
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図1では、日本の順位は下から4位であり、日本は仕事のストレスの少ない国であるといえます。逆に、図2では、日本の順位は上から4位であり、日本は仕事のストレスの多い国であるといえます。
私は、最初、図1の比較が掲げられていたOECDの報告書(Society at a Glance 2009)に驚きを感じ、そのまま社会実情データ図録で取り上げました。そうしたら、過労死で友人を亡くされた方から、経営者側に労働者をもっと働かせる余地があるというメッセージを送ることになるので、むしろ、過労死のデータに変更するようにという抗議のメールを頂きました。図録では、コメントを追加して、日本では強くストレスを感じている人も多いという図2に見られる特徴を強調しました。
実は、日本の特徴はこのようにデータの取り方によって違いが出る点にあるのです。すなわち欧米諸国では「中ストレス」の勤労者が多いのに対して日本は「中ストレス」の人が少なくて、「高ストレス」と「低ストレス」の人に両極分化しているのが特徴なのです。ISSPの原データについてOECD以外の途上国を含めて分析してみると、途上国ほど日本と同様両極分化型の国が多いことが分かりました。
私の推測では、日本社会は欧米流の近代化が進んだとはいっても、なお、近代化以前の伝統的な働き方を捨て去ってはおらず、キリキリしながら働いている人ばかりではないのだろうと思われます。その一方で、効率優先の職場も重要な役割を果たしており、その中で長時間労働や高ストレスにさいなまれながら仕事をしている者も多いので過労死が社会問題となるのです。日本の場合は、途上国のように都市部と農村部、あるいは近代産業と在来産業の対立というより、同じ会社の中に両方の働き方が混在している可能性が強いのではないでしょうか。
私の企業調査の経験では、工場部門と営業・研究開発などそれ以外の部門とでは職制の性格や労働時間管理のあり方がかなり異なっており、ストレスの発生形態も違いがあるので、非正規社員が増加し、正社員に対してますます仕事の責任が高まる状況の中で、職場ごとにきめ細かい労務管理を行わないと会社全体の中で局所的にストレスによるノイローゼやうつ病などメンタルヘルス問題が顕在化する可能性が高まるのではないかと考えています。経営者や人事担当者が自社の中でストレスを余り感じていない社員が多いのを見かけて社員全体に単純に労働強化を命じると意図せざる結果を生んでしまうことに気をつけねばならないことを今回掲げた2つの図の違いは示していると思われます。
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