昨年の米大統領選で、ブッシュ、ケリー両候補の討論会でのパフォーマンスが、終盤でのケリー候補追い上げの要因となったことはまだ記憶に新しい。そう言えば、討論会が終わるや否や、メディアは二人のパフォーマンスについて何だかんだとまくし立てていたし、野次を飛ばしながらテレビ“観戦”していた有権者も両候補のパフォーマンスに自ら優劣をつけていたのを思い出す。いうなれば、あの討論会は、全ての有権者を審査員とした米国最大のスピーチ・コンテストだったわけで、米国社会におけるスピーチの重要性を明確に示してくれた。

この象徴的な例からも分かるように、米国ではスピーチの上手下手が即、話し手の評価につながってしまう。だから米国人のスピーチに対する関心はとても強く、スピーチをテーマにした研修もあちこちで行われている。子供たちも、学校の宿題に出されたプロジェクトの発表の度に、プレゼンテーションの基本を学んでいる様子だ。「沈黙は金、雄弁は銀」の日本とは少々状況が異なる。

それ故、米国企業で出世しようとか、米国企業相手にビジネスを成功させようという日本人には、米国型スピーチの習得が強く求められる。

では、米国型スピーチって何だろう。実は先日、長年米国大手のテレビ局で活躍した記者を講師として招いた「プレゼンテーション」セミナーに私も参加する機会を得た。以下、その内容も含め、日頃考えていたことをまとめてみる。


舌足らずに気を付けよう。日本人は全てをはっきり言わずに、含みのある言い方をすることが多い。日本人相手であれば、言い残した部分を相手に汲み取ってもらうことでコミュニケーションが成立するが、米国人相手にこのやり方はまず通用しない。米国人は相手を説得するために必要な情報は全てさらけ出し、日本人にはくどいと思われる程よく話すのだが、逆に、相手にも同様のことを期待する。だから、米国人相手のスピーチは、日本人の感覚で「ここまで言わなくても」と思うくらい話すことで、丁度バランスのとれたものとなる。

原稿の棒読みはせず、聴衆を見ながら話そう。日本では、準備した原稿を顔を上げずにひたすら読み続ける人がいるが、これを米国でやったら、「私のスピーチは面白くありません」「私は能力がありません」と最初から言っているようなもの。これでは、どんなに中身のあるスピーチであっても、聴衆がついてこない。

スピーチ原稿は自分で書こう。自分で書いたスピーチは、内容が頭に入っているから常に原稿に頼る必要がない。原稿の棒読み対策にもなる。

自然な姿勢を保とう。手は前や後ろに組んだりしないで、話の流れに沿って自然に前後、左右、上下に動かせばよい。また、話の内容が許す限り、笑顔を忘れないこと。

ユーモアも交えよう。笑えるエピソードが一つや二つ入ると聴衆をグーと引き付けることが出来る。そこで話し手と聴衆とのコミュニケーションが成立すると、後は双方が波に乗れる。米国人のスピーチは、笑い話で始まるパターンがほとんどだ。

ポイントは3点までにしよう。それ以上は、聴衆の頭に残り難いし、話し手も3点ぐらいまでは覚えていられるという訳だ。

あるポイントを強調した後は、少し間を置こう。聴衆に消化時間を与えることで強調効果が高まるし、次のポイントにも入り易くなる。

躊躇せず、自信を持って話そう。スピーチのテーマは普通、話し手が熟知していることだから、胸を張って話すこと。自信なさそうな、しどろもどろのスピーチは、聞いている方が耐えられない。逆に、自分の専門分野以外のことについてはスピーチは頼まれてもしない方が良い。

大きな声で話そう。小さな声だと、たとえ内容のあるスピーチであっても、聴衆を引き付けられないし、会議や討論の場では他人に割り込まれ易い。だから、ゆっくりでも構わないから意識して大きな声で話すこと。

キーワードを使おう。言いたいポイントを一言でいうとしたら、どんな言葉になるだろうか。その言葉をスピーチの中で効果的に使うことで、聴衆に強い印象を残せる。

出来るだけスムーズに、情熱をもって話そう。話が途切れ途切れになると、聴衆が集中力を失い、なかなか波に乗れない。そうしたスピーチでは話し手の情熱が空回りしてしまう。

質疑応答では、受け答えはできるだけポジティブにしよう。質問者が使用したネガティブな言葉は、返答で繰り返さないこと。よりポジティブな代替用語を使ってネガティブなイメージを排除したい。また、質問されたことは避けるのではなく、出来る限り誠意的に答えることで、質問者に好印象を与えよう。質問の内容を無視して、自分の主張したいことだけしか言わない人がいるが、そうした態度はマイナス効果を生むだけだ。


以上、いずれも私にとっては「言うは易く行うは難し」だ。しかも、英語でやるとなると至難の業のようにも見える。しかし「上手なスピーチの最大の秘訣は一にも二にも練習」というのが専門家の一致した意見のようだ。できるところから、こつこつと気長にチャレンジしようと思う。

Copyright by Atsushi Yuzawa 2005


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