◆賃金スライドとはなにか?
年金の支給基準を改定するときの考え方の1つに、現役世代の生活向上分を高齢者の生活向上に反映させるというものがあります。
たとえば、生活の向上によってエアコンをどの家庭でも取り付けるようになれば、高齢者の家庭にもエアコンを取り付ける費用が必要になってきます。
インフレによる物価上昇を反映した物価スライドでは、現在の生活水準を維持することはできますが、生活水準の向上に対応することはできません。
通常、企業の経済活動により、生産性が向上すると賃金が物価上昇以上に上がって実質的な収入が増え、暮らしが豊かになっていきます。そこで、以前は毎年の物価スライドとは別に、5年に1度の財政再計算のときに現役世代の賃金の伸び率に応じて基準となる年金額の引き上げが行われていました。
これが「賃金スライド」と呼ばれる制度です。つまり、年金額は毎年の物価スライドと5年に1度の賃金スライドによって改定され、年金世代は、現役世代と変わらない生活水準を保つことができたのです。
しかし、1999年の年金改正で5年ごとの賃金スライドは凍結されることになりました。少子高齢化の予想以上の進展によって、財政的な負担が大きくなりすぎるというのがその理由です。
そのため、65歳の最初の年金支給時に現役時代の全期間の賃金を再計算して調整した賃金スライドを一度だけ行い、以後は物価スライドだけになりました。
このようにすると、支給開始当初はそれほど影響はありませんが、だんだん現役世代の生活水準と差がついていくことになります。長生きすればするほど大きな差になっていくということです。
あまり差がつきすぎると問題が出てきますので、2割以上格差が広がった場合は賃金スライドが行われることになっています。
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