◆神々が生きる チベット
チベット・・・・その地名を耳にした者は、誰でも俗界とは異質の輝きを放つ理想郷を思い浮かべることでしょう。
行政区分でいうチベット自治区は「世界の屋根」ヒマラヤ山脈の北側に位置する昆崙山脈に囲まれた地域を指しますが、ラマ教信仰で結ばれた雲南・四川・甘粛各省の自治州も含め「チベット」と定義するのがふさわしいように思います。
区都ラサの標高は富士山頂に匹敵する3650メートル。澄み切った青空とは対照的に空気は薄く、到着早々「高山病」に苦しむ旅行者も少なくありません。が、「天上のヴェルサイユ」と称されるポタラ宮の秀麗な姿に接すれば、そんな息苦しさも忘れてしまうはず。
17世紀に造営が始まったポタラ宮は、以来3世紀にわたりチベット領袖ダライ・ラマ(観音の化身)の宮殿として、ラサの繁栄も動乱も見守ってきました。そのスケールは壮大無比で、部屋数は1000を下らないといわれています。「宝物苑」を意味するノルブリンカは、ダライ・ラマの夏の離宮。昨年末、ポタラ宮に次ぐチベット2カ所目の世界遺産に登録されました。
チベット族の生活は、衣食住すべてラマ教の教義に則り営まれています。その信仰心は厚く、毛沢東思想を強要した文化大革命では宗教否定から多数の仏教寺院が破壊され、敬虔な信者や僧侶が大量虐殺されるという苦難に直面しましたが、それでも信仰を捨てることを拒み通しました。
文革以前も共産支配に対する反発は根深く、59年のラサ大暴動時にはダライ・ラマ14世が死の行軍のすえ、インドへの亡命を余儀なくされるという悲劇も。
その後、ダラムサラに亡命政府を樹立し今日に至っており、チベット問題は新疆問題と共に現政権が抱える最大の「内憂」となっています。が、その一方では、貧困地区への経済援助を柱とする宥和政策が浸透。外国人に対する入境制限も格段に緩和されました。
インフラ整備が順調に進むなか、夢のチベット鉄道が開通する日もそう遠くはないようです。
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