毎月15日発行

17回:同調なしの協調


あけましておめでとうございます。シカゴに来て、3回目のクリスマスも終わり、冬学期が始まります。
「日本人は協調性があり、和を大切にする。」と言われます。その一方で、「アメリカ人は強力な個性があるけど、協調性はない」とも言われます。今月は、その協調について気がついたことを書きたいと思います。

「日本人は協調性がある」と言われれば、そういう気がします。日本でみんなでランチにいった時には、同じようなメニューを注文することが多いです。みんなで仕事をする場合にも、しっかりと自己主張するというよりは、協調性を大切にしようとします。アメリカでは、みんな違うものを食べるでしょうし、注文をするときにも細かく自分の好みを伝えたりします。一緒に仕事をするときにも自分の意見をしっかりと言うことが多いです。そのため、アメリカに来たときには、「あー。やっぱり日本人は協調性があっていいな。アメリカにいる人たちはみんな勝手だな。」なんて思ったりしました。ただ、最近、実は日本とアメリカでは協調性の種類が違うのではないかという気がしています。



協調と同調がそのポイントです。協調と同調は似ていますが、その意味は違います。協調は、違う利害を持っている人たちがお互いに協力することです。同調は、他の人と同じ行動をとることです。同調しないで協調するというのも可能なわけです。日本人は同調を通じた協調が得意で、アメリカに暮らす人は同調することなく協調することが得意なのです。


アメリカにはいろいろな人がいます。白人やアフリカン・アメリカン、アジア人やラテン。あまり裕福ではない人やとてもリッチな人。キリスト教徒やムスリム、ヒンズー教徒、仏教徒。ベジタリアンや肉しか食べていないんじゃない?というような人。また、学歴や職業、キャリアパス、人生設計も様々です。ここまでバックグラウンドが違うと、同調することはなかなか難しくなります。「みんなで同じことをしましょう!」といってもなかなか難しいです。

そのため、どのようにしてお互いに気持ちよく生活するかがポイントとなります。アメリカでは、考え方や利害が大きく異なる人と、どのようにして一緒の国で生活していくかは切実な問題であり続けてきました。その結果、いろいろな知恵が生まれています。例えば、目があったりすると、ニコッと笑って「ハイ!」と挨拶してくれます。かわいい女の子から「ハイ!」なんていわれるとドキドキしたものです。これは別にアメリカ人が陽気だからというだけではありません。見知らぬ人とどのようにしてうまくやっていくかという小さな知恵の一つなのです。「私はあなたに危害を加える人間ではありませんよ」ということを暗に伝えているわけです。目が合って、黙ったまま目をそらしたりしたら、「なんだか怪しい」ということになりかねないのです。お店に入った時にも、店員さんに「ハイ」と軽く挨拶したりするのも、「怪しいものではありませんよ。気持ちよくサービスしてくださいね」という印の笑顔なのです。アメリカでは同調することなく、どのようにお互いが気持ちよく生活できるかポイントとなっているのです。

日本人ももちろん協調は得意です。ただ、得意なのは同調を通じた協調で、バックグラウンドが違う人と同調せずに協調するということはあまり上手くないような気がします。もちろん、違うバックグラウンドを持った人とも協調しようとするでしょう。ただ、それはあまり得意ではないような気がします。これまで、日本では同質性が比較的高く、異質な人と接する機会は多くなかったためでしょう。



 今、日本はどんどん多様性が増しています。いろいろな選択肢が生まれてきています。自分と違った考え方の人、自分と違った人生設計の人が多く出てきます。様々なキャリア・パスが考えられます。どれが良いパスかは個人が決めるようになってきています。外国からの労働力も増えるかもしれません。どんどん自分とは違う人が増えているのです。なかなか同調することは難しくなります。


会社の中でも、多様性はどんどん増してきます。新しくプロジェクトを立ち上げる時に、「とりあえず、まずは、一緒に飲みましょう。詳しい話はそれから。」などというやり方は難しくなってくるかもしれません。アルコールを飲まない人もいるでしょうし、仕事を時間外に延ばしたくない人もでてくるでしょう。同調を通じた協調は難しくなってきます。

アメリカは世界でもっとも多様性がある国の一つです。上手くいっている面も、あまり上手くいっていないこともあります。人種による差別や収入の格差による差別もあるでしょう。ただ、これからの日本での多様性の高まりを考えた時に、いかに多様性の高い社会で気持ちよく生きていくかのヒントは多く隠されています。多様性は上手くマネージすればイノベーションの源泉となります。一方、そのマネージメントが下手だと、結果は目も当てられないものとなります。多様性のマネージメントは重要です。そのなかで、同調なしでいかにして協調していくかはキー・ポイントとなりそうです。

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