仕事観は変ってしまったのか?
根底に係わる問題だけに、ことは深刻だ。
あなたは、仕事を誇れますか !?
仕事観というあまり聞きなれない言葉を最近経営に携わる方々から何度か耳にした。社員の仕事に対する考え方ということだと思うが、経営にとって社員の仕事観が一つの課題となっているようである。

ある企業では、社員に対して「自分の仕事ぶりを家族に説明するとしたら、どんな風に説明するか?」という課題を与え、社員に自分の仕事観の振り返りをさせているそうである。ただ、我々の世代にとっては、家族や近しい人に対して、仕事を誇らしく語りたいというのが常識であろうが、これを覆すかの様な話が増えている。

野村総合研究所が2005年10月、上場企業の20代、30代の正社員を対象に実施した調査では、現在の仕事に対して無気力を感じる人は75.0%(「よく無気力を感じる」16.1%、「ときどき無気力を感じる」58.9%)であったという。では何のために仕事をしているのかといえば、「報酬」が29.0%でトップ、以下「自分だけにしかできないと感じる」(22.0%)、「新しいスキルやノウハウが身につく」(21.8%)、「自分の実績として誇れる」(21.5%)が上位にきている。

「家族に対して誇れる仕事」とは何か。例えば小学生の子供に仕事を説明するのであれば、社会でどんな役割を果たしているかについて話すのが通常であろう。その様に考えると、上記の「報酬」や「自分の利益につながる」といったことをポイントにしている現代のサラリーマンの仕事観は、家族に誇れる仕事とは無縁とすら思えてくる。

この様な仕事観の変化は従前から言われていたことかもしれない。若者の仕事に対する態度が変わった、モチベーションが低いなど、近年の論調ではある。ただ、経営がことさら仕事観に注目しているのは、そういった世の中の傾向と自社のあり方の接点として仕事観という問題が浮かび上がっているからの様に思う。かつて、日本企業の強みは、性善説で社員と向き合えることであった。欧米企業が労働者を怠ける者とみなし、その管理に多大きなコストをかけてきたこととの対比で考えれば、働くことを美徳とし、仕事を誇りに思う労働者の存在は優れた資産であり競争力の源泉だったのは疑いない。


前述の企業では、自分の仕事ぶりを家族に説明する課題を与えた後、もう一度客観的に自分の仕事ぶりを振り返ってもらい、家族に対してありたい自分の仕事と、現実とのギャップへの気づきへと結び付けている。そういったセッションを繰り返すうちに社員は、職業人としてのプライドや、ありたい自分の姿に立ち返って、自らの仕事への姿勢や行動を変えようとするという。だが、こういった活動が、野村総合研究所の調査で示唆されたような仕事観を持つ若者にどれほど有効なのであろうか。。

個人の価値観を外部から変えることは難しい。そもそも変えようとする取り組み自体に不遜を感じる。だが、個人の価値観は思いのほか移ろい、変化するものなのかもしれない。「仕事はお金のため、自分のため」といった価値観が表層的に存在する一方で、「社会や仲間のために力をあわせ、努力する」といった古めかしい価値観も個人の中には存在し、きっかけを与えることでそれが表出してくるということもあるのであろう。

社会全体がその様な仕事観を尊重し、表出する傾向にあれば、企業がその努力をする必要はなかった。しかし「仕事はお金のため、自分のため」といった価値観が社会の基調となった今日、企業は、小さな社会として「社会や仲間のために力をあわせ、努力する」といった仕事観を表出しやすい環境作りをする必要があるのであろう。前述の企業の試みは正にこれに該当する。

最後に当たり前の事だが、単に「仕事とは誇れるものだ」という号令をかけ続けるだけでは全く意味がないのは勿論である。なぜうちの仕事は誇れるのかについて個人に考えてもらうと同時に、経営自身が自社のあり方や社会への貢献について真剣に考え、社員を含むステークホルダーに発信していく必要がある。次回は、企業理念やビジョンといった経営からのメッセージと個人との関係について考えてみたい。



株式会社アイ・イーシー 東京都千代田区飯田橋4-4-15 Tel 03-3263-4474
All Rights Reserved by IEC