今月も先月に引き続き、モチベーションについて。
「仕事で自己実現」といった、人材ビジネスのCMの様なスローガンを
掲げることにはむなしさを感じる・・・・・・・!?
「あなたは何をしているのですか?」
労働者A:レンガを積んでいます。
労働者B:壁を作っています。
労働者C:教会を作っています。
一般に同じことをやっていても労働者Cのモチベーションは高いと言われている。が、更に労働者への質問は続く。
「あなたは何のためにレンガを積んでいるのですか?」
労働者A:学費を稼いで、大学をでるためです。
労働者B:家族を養うためでさあ、だんな。
労働者C:今晩の酒代のためでさあ、だんな。あっしは無宗教で・・・。
さて、誰のモチベーションが高いのだろうか?

個々人がモチベーションを持つ理由は千差万別である。確かに上記の「教会を作る」等、崇高な目的をもっている「エクセレント・カンパニー」で働く方が、そうでない会社で働くことよりましではある。しかし、それが本人の動機づけになるとは限らない。衛生要因のアナロジーで考えれば、エクセレント・カンパニーでないことが不満要因にはなるが、満足要因にはならないといったところであろう。

また、仮に個人の自己実現がモチベーションの源泉であるとすれば、個々人の自己実現を支援することがモチベーションを高めることになる。しかし、ここで「仕事で自己実現」といった、人材ビジネスのCMの様なスローガンを掲げることにはむなしさを感じる。なぜなら、仕事を通じて自己を実現できる人間は、極めて限られているからだ。同じ様に昨今のキャリアビジョン議論についても、いささかの無理を感じる。論者によく引用されるのは、やはり衛生要因である。曰く、「人はお金ではなく、何かエキサイティングなやりがいのある仕事によって動機づけられる」ということだ。しかし、こういった話を聞くたびに、この論者の年収はいくらなのか?と思う。また、俗世を離れ、求道を続ける徳の高い僧侶が、「金ではない」と言うのは納得がいくが、逆にその生き方と自らの生き方はあまりにかけ離れている。


そんな中て、ワーク・ライフバランスの推進が、企業が個人の自己実現を支援する上で最も効果的な方法ではないかと筆者は考えている。

結局のところ、前述の例にある様に、会社が組織としてエクセレントであることは、不満を取り除いても、モチベーションを高めることにはならない。個々人には個々人の働く目的があるからだ。働くことが目的化していることを「仕事人間」「ワーカホリック」などと言ったものだが、これまで述べてきたように、そういった会社に都合よく洗脳された人材が今後も増え続けるとは思えない。事態をあがなうために、会社へのロイヤリティや個人のモチベーションを操作しようとする取り組みも既に見透かされている。そういった状況で会社がなすべきは、衛生要因としてエクセレント・カンパニーであること、そして個々人の働く目的に対する考慮、すなわち仕事(ワーク)と人生(ライフ)のバランスへの配慮をすることである。これは結果的に会社へのロイヤリティを高めるかもしれない。しかし、間違ってはいけないのは、この時、個人はかつてのように会社を拠所とし、同化しようとしているわけではないということである。

では、具体的には何をするべきか?会社と個人が同じくゴールとして設定できるものでまず思いつくことは「時間生産性の向上」である。先々月に紹介した「次世代法」に基づく各種の制度も、生産性の議論なしには全く絵に描いた餅である。理念レベルで人材尊重を謳っても、職場に滅私奉公せざるを得ない環境では個々人の働く目的を尊重することはおぼつかない。解決の手段は、同じ成果をより短い時間で上げることに全社を挙げてコミットし、実践することであろう。

いくつかの先進企業で、上記の考え方と呼応した取り組みが見られる。通常の時間生産性向上活動とことなる点は、活動の目標として、明確にワーク・ライフバランスの回復を謳っていることである。単に時間生産性向上を志向しても、それが短期的な企業業績の向上だけに向けられていれば、従業員のワーク・ライフバランスに与える影響は却って逆効果ですらある。次回は具体的な取り組みの例を通じて、個々人の価値観を尊重した人材マネジメントのあり方を考えてみたい。


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