某シンクタンクで活躍中のM氏が発信する
人事教育ウォッチング、“MM,05”。
今月は女性&非正社員の戦力化を考える上で、今後真剣に取り組む必要がある視点について。
これからの人材マネジメントとは、人材の多様性とどう向き合うかである。その中でも、少子高齢化の進む日本において、女性の社会進出をいかに支えるかが大きなテーマと考えられている。しかし、これを女性の雇用を促進するという側面だけで考えていてはいけない。働くもの全てのワーク・ライフバランスをいかに正常化するについて考えるべきである。

2005年4月に政府による「次世代育成支援対策推進法」(以下「次世代法」)が施行され、常時雇用する労働者が301名以上の企業に対しては、一般事業主行動計画の策定と構成労働大臣への届出が義務付けられた。要は、育児のための様々な制度を会社としていかに充実・推進するかを届け出るということだ。施行一年にして、様々な企業で子育て支援策のお披露目が行われた。例えば、日産自動車では、妊娠が判明した時点で即座に産前休暇を認める。またサントリーや新日本石油では、小学三年までの子供を持つ社員が勤務時間を短縮できる制度を導入した。これは、改正育児・介護休業法で定められた三歳未満の子供を持つ社員の勤務時間短縮義務を上回る制度である。

さて、この様に企業としての取り組み姿勢は鮮明になってきているが、実際にそれが働くものにとって有効に活用されているかとなると、まだまだ課題が多い。読者の中でも「次世代法」と言われてすぐにピンと来た方はどれほどいらっしゃるだろうか。先月、野村総合研究所(http://www.nri.co.jp/)が小学3年生以下の子どもを持つサラリーマンに行った調査では、「次世代法」の施行に伴い、勤務する企業で、新たな育児支援対策が「あった」と回答したものは、わずか4.9%に過ぎなかった。残りの95%は「なかった」か「気づかなかった」と答えている。対策の遅れもさることながら、啓蒙活動、更には個人の意識が追いついていないことをうかがわせる結果である。また、同調査において、女性の80%が「育児は主に自分の仕事」と考えており、育児分担がまだまだ女性に偏っていることがわかる。今後、女性の社会進出が望まれる中で、まずは育児に関する認識を個人が改め、正統な権利であり義務として育児に参加するという意識を持つ必要があるだろう。
多様性という観点からは、非正規社員に対する対応も重要となるが、彼・彼女達に対する配慮は極めて乏しい。しかし、イトーヨカドーの様に、正社員同様にパートタイマーや派遣社員の方の出産、育児を支援している企業もある。非正規社員でもコア人材はいるという事実に気づいての判断であろう。実際、25歳から34歳の女性労働者で、非正規社員が50%弱を占める現在において、多くの企業が近々取り組むべきことである。

最後に男性のワーク・ライフバランスについて、考えさせられた調査結果を紹介したい。ベネッセ(http://www.benesse.co.jp/)が先月「幼児の生活アンケート 東アジア5都市調査」の結果を発表した。これによると、台北、北京、上海、ソウル、そして東京において、父親の帰宅時間が最も遅いのは東京で最頻値は23時(16%)である。次に遅いソウルでも最頻値は20時(19%)であり、いかに日本の男性サラリーマンが家庭を蔑ろにして働き続けているかがわかる。当然ながら父親の育児へのかかわり頻度も東京は最下位であり、その分の負担が母親にかかることになる。また、同調査で東京の母親は、他の都市に比べ、リーダーシップや能力など仕事面での活躍を子どもに期待していないという結果もでている。

企業として、国の要請から各種制度をそろえることは比較的たやすいことである。しかし、その利用を促進することは容易なことではないのかもしれない。しかし、人材が多様化する時代において、多様な人材にとって働きやすい環境、すなわち企業が理念のレベルから、働くものの価値観を尊重することを表明し、理念と整合性を持った各種の制度を真摯に実践することが、長期的には優秀な人材を集め、企業の競争力を高めることにつながるはずである。

また、働く者も企業や仕事への過度な忠誠心、悪く言えば依存心を改め、家庭の重要性を再認識すべきである。公的教育の崩壊や企業の人材育成機能の低下が顕著になりつつある現代において、人を育てるのは家庭だ。学校や企業に比べれば、家族との絆は遥かに強く、個人への影響も計り知れない。父親不在、立身出世を説かない家庭のあり方も、そろそろ改めるべきだと思うのは筆者だけであろうか。

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