「一年の計は元旦にあり」とよく言う。計とは文字通り計画ということであるが、一年の計となると、簡単な様でなかなか難しい。一方、今(年初)時点ではつい先週のことなので、年末の状態を振り返ってみることは簡単だ。さて、みなさんは昨年の一年の計を年末時点で達成していたと言えるだろうか?
前回、「新卒の早期戦力化には、早い時点でキャリアビジョンを持たせるべき」と書いた。今回はビジョン、そして理念について考えてみよう。
まず、ビジョンとはある将来の時点でのありたい姿である。定義は簡単だが、実際に作ろうとすると意外と難しい。例えばあなたが一年後にどうなっていたいか、真剣にイメージしてみよう。一年の計を建てることが容易でない様に、一年後のありたい姿を描くのも難しい。しかしこの二つ、因果関係がある。一年の計が建てられないのは、実は一年後にどうなりたいかというビジョンがないことに起因している。当然、今どうなのかが不明確であれば、ありたい姿が明確でも計画はおぼつかない。そういった意味で、ありたい姿と、今の状況が明確ならば一年の計はおのずと見えてくると言える。
では肝心のビジョンはどうすればよいのだろうか? まず、どうすればできるかを考える前に、どうして難しいのかを考えてみたい。第一に、ビジョンを考えるのに、できるかできないかを考えてはいけない。なぜなら、ビジョンはありたい姿であり、なれる姿ではないからだ。優れた企業のビジョンには稀有壮大ともいえるものが少なからずある。しかし、それがありたい姿を示している限り、今できる算段が客観的に立つかはほとんど問題にならない。
次に完璧であることに拘る必要はない。勿論完璧である方が、完璧でないよりよい。しかし、完璧であることに拘るあまり、ありたい姿とは関係ないことまで考え、本来のありたい姿を見失うことがままある。また必要以上に時間がかかり、ありたい姿への情熱を失うことにもなりかねない。
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次に、ビジョンの建て方に移ろう。前述の二つのポイントに気がつけば、後は、いわゆる5W1Hで、ありたい姿をとことん考えればいい。「とことん」と言うのがあいまいに聞こえるかもしれないが、これは、一度考えたビジョンに対して、「それが本当にありたい姿と言えるのか?」と何度も問いただすことである。ただ、そう考えると、ありたい姿を規定する何かが必要になってくる。
ここで重要になるのが、今回のもう一方のテーマ、理念である。企業の理念についてはいろいろな解釈が存在するが、企業の存在意義、価値観、そして行動規範の三つであるとしておけば、概ね諸先輩方の定義と齟齬を起こさない。存在意義とは、社会において、なぜこの企業が必要とされているのかに関する説明である。価値観とは存在意義を確立するために、何を大切にするかを明確にしたものである。そして行動規範とは、存在意義、価値観を体現するために、社員がとるべき「よき行い」を表したものである。理念があれば、ビジョンを作る際に、「それが本当にありたい姿と言えるのか?」を問いただしやすい。
ちなみに、ビジョンなき理念もあまり魅力的とはいえない。なぜなら、人はビジョンに挽かれるからである。勿論、理念に共感することは多々ある。同様の価値観を持った人は理念に共感し、ともに将来を目指したいと願うだろう。ただ、広がりに欠ける。よく「有志の集まり」というが、志のみでは、大きな広がりにならないことを象徴しているように思える。
ビジョンを示し、人々に夢を与え、その根幹にある理念に共感を得る。こうして、顧客や従業員、その他のステークホルダーを巻き込んでいく。これがビジョンと理念を対で持つことの意義である。
ということで、一年の計を建てるには、理念を持ち、ビジョンを描き、今の状況を知ればよい。多分、一年の計より遥かに難しいと感じられるかもしれない。しかし、理念やビジョンがない事が一年の計が成就しない最大の原因である。何を建てるかも決めず設計図面を引き出すのは意味がない。是非とも今年はビジョンを持って一年を過ごしたいものである。
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