6回:ウィンブルドン化と移民

 先月は、イギリスでのウィンブルドン化について書きました。ロンドンでは、テニスでもビジネスでも海外のプレーヤーが活躍しているのです。イギリス人にとってはできることならウィンブルドン化は避けたいことなのですが、実際には、避けることが出来ないのです。ウィンブルドン化はイギリスが“一流”であり続けるために選んだ道なのです。イギリスの人口は、現在、6000万人。日本のおよそ半分です。これだけしかいないのに、テニスも、サッカーもラグビーもゴルフも一流であろうというのははっきりいってムリです。でも、やはり一流でいたいわけです。

そこで、どうするかというと、ウィンブルドンやサッカーのウェンブリー、ゴルフのセント・アンドリューズなどの場をそろえるのです。もちろん、数々のスポーツの発祥の地ということもあるわけですが、その場を今日までしっかりと保ち続けているのです。
これはスポーツの世界に限られることではありません。経済も同じです。経済はお金の量(資本)と労働力と、技術によって決まります。人口が少ないということは、労働力が限られるということです。経済の水準を保つためには、海外に頼らざるを得ません。移民として労働力を受け入れ、彼らが働き、税金を納めているわけです。そして、イギリスの大きな税金の負担を下支えしているのが、移民です。「ゆりかごから墓場まで」を支えているのは、つたない英語しか話せない移民たちなのです。もちろん、移民も歳をとれば、大きな年金や補助のお世話になるわけですが、彼らの子供たちがそれを支えているわけです。勤勉な親を持った移民の子達はイギリスの教育を受け、どんどん社会に進出していきます。(もちろん、まともな教育も受けず、労働者階級の底辺から抜け出せない移民の子達も多くいますが)5〜6000万人程度の国だと人口のランキングで見ると20位前後です。20位前後の人口しか持たないイギリスが、世界のGDPのトップ・ファイブに君臨できるのもそのおかげです。世界から多くの移民を受け入れているだけでなく、移民が集まってくる仕組みをつくっているのです。労働だけでなく、資本も海外から集めています。ロンドンのシティは世界の金融センターの一つです。世界中から企業が集まってきて、金融取引をするわけです。プレーヤーたちの多くは海外から来ているのですが、彼らがプレーしているのはイギリスなのです。

「自分たちだけではムリなので、海外から資本や労働力をもってこよう」、「自分たちは場を作ろう」という戦略なのです。ただ、これは問題もあります。移民による問題は街中にあふれています。治安も悪くなります。差別の問題もでてきます。移民によって職を奪われたイギリス人が保守化するという問題もあります。イギリスの“伝統”がなくなっていっているという面もあるかもしれません。それでも、「ウィンブルドン化」することで多くの恩恵を受けているのです。「ウィンブルドン化」しなければ、今の生活はできないのです。

「ウィンブルドン化」は日本でも起こっています。相撲での外国人力士の活躍はまさに相撲の「ウィンブルドン化」です。ただ、相撲だけでなく、このことは近い将来考えなければいけない問題かもしれません。少子化に歯止めがかからなければ、人口は減っていく一方です。今の経済水準を保つのは難しくなってきます。移民の受け入れを一部でも考えなくてはならないかもしれません。

「多少貧乏になったとしても、移民は受け入れたくない」という考え方もあるでしょう。移民を受け入れることによって、多くの問題が起きるでしょう。移民を受け入れたからといって、これまでのように高い生産性が保証されるわけでもありません。根強い差別もあるでしょう。教育の問題もあります。言葉の問題もあるでしょう。ただし、一つの道です。

そもそも移民を受け入れようと決めた時に、日本がどれだけ魅力的な国なのかは分かりません。外国人が誰も来たがらない国になってしまっているかもしれません。人口の自然増が望めなく、労働人口が減っていくときに、社会保障を含めてどのように日本の国を考えるのかは大きな問題です。そのモデルの一つとなるのが移民を受け入れているイギリスやアメリカかもしれません。人口が少なくとも、高い教育を背景に高品質の製品を作り続けている北欧諸国がモデルになるかもしれません。どう魅力的な国を作るのかは大きな問題です。僕は「ウィンブルドン化」も悪くないなんて思います。世界から人が集まってくればですが。日本人だけじゃなくて、いろいろな人がいた方が面白いでしょう。

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