漁夫の利

ぎょふのり・・・・・
関係のない第三者が、争いを起こしている両者の争いに介入せずにただ観望しているだけで、第三者が思わぬ利益を得ることをいいます。

 「史記」に述べられた中国戦国時代の故事から生まれた語句です。
論客として有名だった蘇代という人が趙の恵王に次のような話をしたとのことです。「私が今日、易水の辺りを通りましたら、岸辺のところで、大きな蚌という貝が口をあけて、目なたぼっこをしておりました。それを見た鷸は、くちばしで蚌の肉をつついたのです。そこで蚌は急に口をふさいだので鷸のくちばしを、しっかりと挟んだのでした。この争いは、なかなか決着がつかなかったのですが、そこを通りかかった漁夫が、鷸と蚌をあっさりとつかまえてしまいました」

この話を終えたあとで蘇代は、「今、魏と隣国の燕とが戦えば、双方とも傷つき、これを第三者として見ていた、大国の秦が利益を受けるだけだ」と戦争を思いとどまるよう説いたのでした。
この教えは、大へん巧みで分かりやすいため多用され、現代でもよくつかわれます。争っている両者の危険な状態は「鷸蚌の争い」(『戦国策』燕・昭王)ということができ、結局第三者を利するだけだといってよいでしょう。

対立した強力なライバル会社が、商標ブランドのことで紛争関係に入り、訴訟問題が発生したりすると、そのブランドイメージを傷つけるばかりか、シェア競争においても第三者に「漁夫の利」を占められてしまうことがあります。

また、社内の出世競争や、派閥争いにも、この現象を見ることがあります。出世のレースでは、無理が生じやすく無謀なリスクを負い、利益の過剰計上に走ったりするようになりがちです。2人で激しく争っている間に、「第3の男」がしっかりと地位をかため、実績を積み上げることなどは、よく見られる企業内風景といえます。

この諺の教えは2点あるといえます。第1点としては、「行動の前によく周囲について、『形勢観望』しておくこと」であり、第2点は、「抗争関係に入るときは、その結果がたしかに、みずからの利益になることが明白でないかぎり、慎重に行動すること」であろうかと思います。
視野が狭い場合には、どうしても目の前にある事象だけが見えて、自分がどのような環境に置かれているのか、真のライバルは誰なのかが分からなくなってしまっているのです。碁を打つ人はよく経験しますが、局地戦に集中しすぎると、部分的に勝ちを収めても大局において負けてしまうことがままあります。自分の立場がハツキリ見えていないということはビジネスの世界では、たいへん不利になるものです。

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