―「捨てる」というのは、企業で行われているコストダウン、リストラなどと考えてよろしいのですか?
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ただ、コストダウンやリストラというと削っていくというイメージですが、削るというのはあまり前向きじゃないですから、削って「何を入れていくか」ということが重要だと思います。ですから、リストラすればいいかというと、ちょっと違うと思います。成長率はそれほど右肩上がりで増えていくことはないと思います。経団連の予測でいくと、2025年までの平均成長率が2%というのがありますが、これも団塊の世代700万人が仕事を辞めてしまったら、3%落ちるという予測も他方ではあるわけですから、もう右肩上がりではいきません。
成長率は伸びないけれども、「中身(心)の充実」ということに切り替えなければいけません。大人の発達心理学とでもいいましょうか。今までは若者の発達心理学を中心にしてきましたが、国民の平均年齢が40歳を超えるわけですから、大人としての新しい発達心理学というのを身に付けなければいけない時代になっていたのではないでしょうか。スローライフという言葉は、大人の心の成長というようなそういう時代の流れや発想から出てきたと思います。スローライフとかスローフード、有機農業など、そういう発想が出てきたのも確実に時代の転換点を表していることだと思います。
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―企業で働くマネージャーにとって、今、どういうことが一番求められているとお考えですか? |
できるだけ次の世代にチャンスを渡していくことだと思います。私は、45歳くらいで吉本で取締役になりました。それまでは部長です。制作部長から取締制作部長に変わったのですが、仕事としては全然変わらなかったんです。それで変えなきゃいかんと思って、あえて会社にいないようにしました。小さな会社といえども、取締役に入るということは経営に入るということじゃないですか。マインドを変えなきゃいけないと思ったんです。ところが、毎日の日常の仕事を見ていると気になってしょうがない。「あそこをああしろ、ここをこうしろ」と。そうすると、それしか部下はやらない。これはよくないなぁと思って「じゃあ見ないことにしよう。おれはいない、外に遊びに行っている」そうすると2、3週間は、「いてくれないと困ります」と言われます。でも、それが過ぎれば自分がいなくても勝手に回っていきます。企業というのはそういうものでしょう。
そこで手放してしまう勇気、思い切りみたいなものがすごく大事だと思います。でも、本当は一瞬寂しいんです。たとえば自分の会社で作っている番組で最後に自分の名前が出ないとか。じつは、そういうことはどうでもいいことなんですけども、それが捨てられない人がいっぱいいるんですよ。でも捨ててしまうと、逆になんかしないといけないと思いますから、必死でがんばります。それで、2年くらいたって振り返ると、以前よりもう一段違う大きな目線でモノを見られるようになってるんです。
手放すということはすごく思い切りがいることですが、それをやらないとダメですね。捨てるとか、壊すということが先。そうすれば、次が見えてきます。私は本当に会社を辞めてよかったと思うんです。会社を捨てたから見えるということがいっぱいあります。
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―これまでたくさんの人材を採用されてこられたと思いますが、「木村さん流人材発掘術」のようなものはございますか? |
よく企業で2−6−2の法則といいますね。放っておいても上の2割はがんばります。6割はまあまあで、ダメなのが2割ということなんですが、私はこのダメな2割が宝庫だと思ってるんです。真ん中の6割というのは放っとけばいいんです。大勢になびきますから。大事なのは下の2割で、こ2割の中に実はダイヤモンドの原石があるんじゃないかなぁと思っています。もちろんハナから基本的な能力がないという人は別ですが、何かがあってそっぽを向いている、ヘソを曲げているという人は、少し方向性を変えてチャンスを与えてやれば絶対に上の2割に迫ります。ですから、逆に言うと下の2割は宝庫ですし、そこに会社の問題が集約されている気がします。もし組織に問題があれば、解決のヒントはそこにあると思います。
でも、説得なんてしてはダメなんです。説得というのは、「説く人が得をする」と書くんですね(笑)。説得される人にはメリットがないんです。ですから、説得ではなくて、どうチャンスを与えてあげるか、ポジションを与えるか、ということだと思います。その我慢というか度量みたいなものが大事なんじゃないでしょうか。
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木村政雄(きむら まさお)氏プロフィール
フリープロデューサー
昭和21年京都市生まれ 。吉本興業株式会社で、横山やすし・西川きよしのマネ−ジャ−を8年半担当。数々のトラブルを解決する。昭和55年には東京進出の切り込み隊長として東京事務所を任され、「漫才ブーム」の火付け役となった。その後も名古屋、福岡、札幌、岡山に事務所を開く等、「笑いの仕掛け人」として関西のお笑いを全国に広め、新喜劇の大改革断行など、「ミスター“吉本”」として数々の功績を残す。平成14年に吉本興業を退職。現在は、「木村政雄の事務所」を設立し、講演・執筆活動、テレビ・ラジオ出演の傍ら、教育事業、エンターテイメント事業、地域活性などに取り組む。「有名塾」主宰、法政大学大学院客員教授、京都精華大学理事。著書「五十代からは捨てて勝つ 自分株式会社をつくろう(PHP研究所)」「こうすれば伸ばせる!人間の賞味期限(祥伝社)」「やすし・きよしと過ごした日々(文芸春秋)」ほか
【木村政雄さんの事務所のホームページ】
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