御社の経営理念は「全従業者の幸福の創造」だそうですね。人材育成においての理念や方針はどのようなものなのでしょうか?
『従業者の幸福』のために会社として何ができるか、という点で人材育成のプログラムを用意しています。ただ、会社がプログラムを用意するだけではなく、この経営理念を追求するために、従業者ひとりひとりが『自ら考えて行動していく』という姿勢が非常に重要だと考えています。
わが社は、どちらかというとアットホーム。協調的で穏やかな社風だと思います。その持ち味を生かしつつ、『自主自立』の考え方との両立を図るという点ではなかなか難しいものを感じるときもありますね。今後、この両立をいかに図っていくかが課題だと考えています。
特に、人材育成で特に注力していることは何でしょうか?
若手社員や中堅社員の育成ですね。私自身、現在、新卒採用や若手社員の教育を担当しています。その中では、各年代によってベースとして必要となるカリキュラムを用意しています。
最近は世間的にも「若手の離職率が高まっている」と言われますし、せっかく入社した若手社員が実際の現場の業務に悩むことがないように、ある程度しっかりしたフォローをやらなくては、という思いもあります。
入社してすぐの導入研修から始まり、3ヶ月、6ヶ月、1年、2年というタイミングでフォローアップの集合研修を行っています。MBO(Management By Objectives目標による管理)を採り入れ、自分で目標を設定し、それに向かって行動する。フォローアップの中では、自分で設定した目標に対して現状がどうか、そして未来に向かってどのように行動するかを確認し、自ら考え、発見していくプロセスをとっています。
また、新入社員にとっては、自分の業務を覚えること、こなすことが精一杯という時期でもあるので、研修の場は、各部署に配属になった同期の状況を知り、会社の中での業務のつながりを理解でき、視野を広げる場にもなっています。
そのほかには、集合的な研修だけではなく、社員それぞれに応じたフォローも行うようにしています。新入社員と所属長の間で週報のやりとりをしてもらっています。これは、新入社員が業務の中で困ったことや相談したいことなどを書き、所属長がそれにアドバイスや指導などをコメントするものです。人事側でも定期的にそのやりとりを確認し、適宜コメントをするようにしています。
コミュニケーションをしっかりとることが、やはりマネジメントをする上では一番大切だし、それに尽きると思うんですよね。ですから、『週報をやりとりする』という中で、通常の業務では補い切れない部分のフォローになっているのではないかと思っています。
実は、文系職種の新入社員配属が数年前までは少なかったこともあり、部署の上長の中には、年代が離れてしまって、「若手をどのようにマネジメントしたらいいのかわからない」という戸惑いもあったと思います。そんな中で、週報がひとつのコミュニケーションのきっかけになっているということはいえると思います。やはり「書く」という行為自体が、何かしらの思いがあるからこそだと思いますし、私自身、週報を見る中で、上司から新入社員への熱いメッセージ、励ましというのも見かけたりします。そういうものを見ると、これは、それぞれの社員なりの成長を助け、一緒に成長していくという形になってきているのかなと感じますね。
研修や週報のやりとりなど、若手社員のフォローアップに力を入れられているというのを感じます。これは、創業以来の伝統のようなものですか?
工場においては、独自に若手の教育プログラムが組まれており、長年にわたって実施されています。ただ、営業や管理部門などの文系職種を対象とした研修は5〜6年前まで、それほど無かったのが実情で、技術者向けの新人研修を一緒に受けもらっていた状況でした。私も文系出身ですが、研修生の頃は技術的内容についていくのが大変だったのを覚えています。研修中に印象に残っているのは、FA装置の設計をする部署での実習。まったく知識もなかったのですが、「こういう風に動くようにプログラムを組んでみて」とPCと資料を渡されて最初は戸惑いましたね。ただ、会社としては「わからないことは、自分で調べる、自分から先輩たちに声をかけて教えてもらう」ということを学ばせたかったんだと思うんですよね。私自身は、今にして思うとそれがよかったというか、学ぶことも多かったという感想なんです。
でも今は、就職活動している学生や会社に入って間もない社会人の中では『会社に教えてもらう、育ててもらうのは当たり前』という意識が強くなってきているのかなという印象を持ちます。だから研修を充実させているというわけでは決してないですし、会社として必要な育成は行いたいと考えています。その一方で、学ぶ側の積極的かつ能動的な姿勢も大事だと思っています。
今は情報を自分から探しにいかなくても、待っていてもどんどん情報が入ってくる時代ですよね。情報があふれすぎていて、どの情報を取捨選択すればいいか、自分で考えたり、疑問を持ったりすることが少なくなっているのではないでしょうか。しかし、少なくとも、当社の社員には、『自分で考えて行動する』姿勢を常に持っていてほしい。ですから、学ぶということにおいても、自分に必要なことを主体的に学びとってもらえたらと思っています。
社員には、研修そのものを、自分自身への『気付き』の場として活用してもらいたいんです。研修は一種、普段の仕事の中で、少しゆるんでしまった『ねじ』を改めて巻きなおすようなものだと思うんですよね。目的ではなく、手段。社員が自ら『こんな研修を受けたい!』『こういう研修を企画してほしい』と意見を出してくれるようになって、私たちはそれをサポートするという風になれば、理想的だなと思うんですよね。
なるほど。「研修はねじを巻きなおす場」というのは、確かにおっしゃるとおりですよね。では最後に、人材育成の面で、今いちばんやりたいと思っていることを教えていただけますか?
社員ひとりひとりにあったフォローを行っていくことですね。やはり社員それぞれで必要としていることもそれぞれ違いますし、できるだけ個別に必要な人材育成をやっていけたらと思っています。それから、人事という立場では、私自身が若手社員の良き相談相手としての役割をしっかりと担えること、そしてゆくゆくは、相談相手の役割を担える中堅社員をできるだけ多く生み出していくことですね。
そして、最終的には『ひとりひとりが成長することで、みんなで成長していこう』という風土を培っていけたらと思っています。
今日は貴重なお話、ありがとうございました!
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