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■愛知学院大学 経営学部 助教授 島本 実
■プロフィール
1969年、生まれ
一橋大学社会学部卒業、同大学院商学研究科修士課程、同博士課程修了
一橋大学博士(商学)
現在、愛知学院大学 経営学部 助教授
研究テーマは技術政策論、産官学プロジェクト論
主な論文は「革新官僚の台頭」『ビジネスレビュー』第45巻第4号、「YS-11プロジェクトの組織デザイン」『一橋論叢』第121巻第5号など |
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■多数派は密かに笑う
最近、携帯電話を買いました。というのも、まわりで携帯電話が普及すればするほど、持っていないと不便だということを痛感するようになったからです。
近頃は携帯を持っていないというと時に困った顔をされたりするようにもなりました。たしかに実際に携帯電話を使ってみると便利に感じることは事実です。しかし私は自分が、増加しつつある携帯利用者たちの圧力に負けたという気もしています。
私は長年マッキントッシュを使ってきたのですが、必要なソフトがバージョンアップしないという状況や、送られてきたファイルが読めないという状況に直面し、ついにウインドウズ機を買いました。これはそれなりに安価で高速、別に文句があるわけではありません。しかし、ここでもやはり多数派に屈服したという思いはぬぐいきれません。
多数派が支持するものに一人だけ取り残されると不利益を被るという状況では、多数派の側が意識せずとも、そこにある種の無言の強制力が生じます。こうした強制力はネットワーク外部性という言葉で説明されます。 この語は多くの人がある規格のものを使えば使うほど、そのネットワークに加入する者の便益が増すことを意味しています。ビジネスモデル特許がこれほど話題になるのも、こうしたメカニズムがその背後にあるからです。
これを経営学の目から見ると、いかにして早期に多数派になるかが自社製品・自社規格の普及の鍵となります。その際には、むしろ製品や規格の機能の優劣以上に、多数派になること自体がパワーの源泉になるという点がポイントです。多数派の支持する規格が共通のインタフェースとして固定されることによって、その他の人も、それに乗らねば不利益を被る構造に自然に追い込まれていくからです。
こうしたインターフェースの共通化は、実際には純粋な便益からだけではなく、われわれの心理が招いているものでもあります。 リッツアーという人は、こうした現象を「マクドナルド化」と呼んで警鐘を鳴らしています。いわばマクドナルドでハンバーガーを買う際に必要な店員とのコミュニケーションはどこでも同じです。 そのためわれわれは、たとえ味はおいしくなくても、なじんだやり方で手に入ることを優先するようになります。 リッツアーはこうしたことによって生じる選択の貧困さが社会全体を覆い尽くす傾向にあるというのです。 例えば、平凡な日常から離れて休暇を自然の中ですごそうとすると、そこにもすでに規格化された娯楽(例えば人工的なキャンプ場など)が待っています。 われわれは新しいもの、珍しいもの、変わったものを許容するよりも、わかりやすく安逸な方向に従うことによって、自ら選択の幅をせばめていくのです。
こうした中で次世代のアントルプレナーになれるかなれないのかの分岐点は、既存の多数派に乗るのではなく、自分の提示を戦略的に多数派にしようとチャレンジできる資質なのではないかと私は考えます。 どんな企業も最初は小企業だったのですし、どんな新しいイノベーションも最初は少数派なのです。 こうした企業こそがわれわれに新しい選択肢を提供し、社会をエキサイティングにしてきたのです。
しかし、そうわかっていながらついつい多数派に負ける私は、やはり多くの凡人の中の一人なのかもしれません...。
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株式会社 アイ・イーシー
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