 |
プロフェサー・ルームようこそ! 各界の第一人者がさまざまな視点からビジネスマン必見の話題を掲載しています。 |
|
|
 |
■愛知学院大学 経営学部 専任講師 島本 実
■プロフィール
1969年、生まれ
一橋大学社会学部卒業、同大学院商学研究科修士課程、同博士課程修了
一橋大学博士(商学)
1999年より愛知学院大学 経営学部 専任講師(現職)
研究テーマは技術政策論、産官学プロジェクト論
主な論文は「革新官僚の台頭」『ビジネスレビュー』第45巻第4号、「YS-11プロジェクトの組織デザイン」『一橋論叢』第121巻第5号など |
|
■世界の根本原理と、それでも自分
Managing Todayの採点をやっていると、ときどき、設問の中で『自分自身の例と照らし合わせて考えてみよう』というところがほとんど白紙の人がいる。テキストの内容についての質問のところにはきちんと解答があるのにである。おそらくテキストの中から一生懸命「正解」を探して書き、テキストの中に解答がないと困ってしまうのであろう。しかし、これは非常にもったいないことだと思う。というのは、Managing
Todayによる学習で最も有用なことは、レディーメイドの解答がない問い、とくに自分についての問いに向き合うことだと思うからである。
私はかつてマッド・サイエンティストになりたかった。子供番組に出てくる世界征服をたくらむアレである。しかし、たまたま文系に進んでしまったので、まあマッド(ソーシャル)サイエンティストでもいいかと考えた。恥ずかしながら私は学生時代、経営の法則を勉強すれば、企業がどのように動いていくか、自分が企業を動かすにはどうしたらいいか「正解」が全部わかり、明日にでも大富豪と考えていたのだ。企業社会を動かしている根本原理、その秘密の鍵となる知識(それは大学で開帳されているはずだ)さえ手に入れれば、世界は思いのままなのさ、ウッシッシというわけだ。
それから十何年も過ぎて、まだ世界征服や大富豪には至らない。(実は世界征服どころか、毎日の生活では妻に支配されているかもしれない。)考えてみれば、社会や組織について、概念を借りて世界が動いていく原理を説明できるようになっても、結局はミクロのレベルで複雑な状況に置かれた自分の次の一歩が完全にわかるはずもない。経営現象を含む社会現象についての命題は過去におけるパターンでしかない。繰り返されてきたパターンであるがゆえに参考になることも多く、パターンに過ぎないがゆえに未来がその通りに動くかどうかの保証はない。将棋の定跡を必死に暗記するだけでは、羽生には勝てないだろう。
もちろん組織には一定のパターンがある。だから、組織論(組織の理論)という学問が成立するのであり、Managing
Todayにも組織について参考になる事例や命題はたくさん書いてある。状況に完全に反応的な個人を仮定すればするほど、そうした人間が集まった社会には確かなパターンが現れる。いわば自然科学が仮定する物質のような人間ばかりの世界なら、組織の動き方、あるいは社会の行く末はかなり確実に予測できる。これは事実である。定跡をぜんぜん知らないで、羽生に挑むのもやはり無謀なことである。
それでは、そうした鍵を知った私が世界征服が可能かといえば、必ずしもそうはいかない。私が「秘密の鍵」を独り占めするならばともかく、経営の知識を皆で共有すればするほど、実際の経営はその知識通りにはいかなくなる。(「秘密の鍵」は惜しげもなく、大学やIECが教えてくれるのだ。)うまい方法をみんなでやったら、それはもはやうまい方法ではない。ライバルもあなたと同様、日々学び考えながら生きているからである。社会や組織について学問がマッドな人にはできない理由は、社会や組織が他者を動かすと同時に、他者に動かされている人間が織りなすものだからである。
人間は社会の制約に完全に従って生きているのでもなく、その一方で完全に思うがままに振る舞えるわけでもない。しかし、その中で自分が意図して、あるいは意図せずに行なったことが、まわりまわって社会に新しいパターンを描き出すことには注意すべきである。われわれが学ぶ意義は、過去のパターンを学びながら社会のメカニズムを知り、自分の生活の中で新たなパターンを意識的に作り出す能力を高めることにある。
そのために必要な訓練の一つは、たとえばManaging Todayで自分自身の例について問う設問に挑んでみることではないだろうか。あなた自身の次の一手を指すのは、これまでの世界がどうであろうと、あなたである。
今後、日本でもダイバーシティー・マネジメント能力が重要となることは間違いない。
百年スパンで考えてみよう
|
|
株式会社 アイ・イーシー
東京都千代田区飯田橋4-4-15
本サイトのコンテンツの無断転載を禁止します
|
|