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■北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手パトリック・ラインメラ氏
■プロフィール
ボッコニ大学(ミラノ)、ケルン大学大学院1990年MBA。ミラノにおける戦略コンサルティング会社を経て、ケルン大学経営学部1995年Ph.D.取得。一橋大学商学部研究科・産業経営研究施設客員研究員後、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手、現在に至る。University
Cattaneo CastellanzaにVisiting Professor。主な著書はProduct Semantics、Marketing Trends
in Japan,「マーケティング革新の時代-製品開発革新」有斐閣1999年(15章)。論文等はEuropean Management Journal,
Journal of Management and Governance、Journal of Design Theory,
情報系,デザインニュース、JIDPO,日経デザインに掲載。
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All things are ready,if our minds be so.
Henry V,
Shakespeare
■タッチダウンのための技術:新経済における就職革新
1月28日(日)、ニューヨークでスーパーボール・パーティに出席する機会を初めて得て、全米の40%の人と共にスーパーボールを生中継で見た。プロジェクターによる大きな画面でニューヨークジャイアンツの負けを見ることになったファンはがっかりだったが、大半の人はフットボールを見るためだけに来たのではなく、飲食や放送される広告(CM)を目的としていた。スーパーボールで放送されるCMの広告料は世界一高い。昨年はインターネット関連の17社が、それぞれ30秒の広告のために220万ドルを支払った。その17社のうち今年も引き続きスーパーボールでCMを放送した会社はほんの僅かで、さらに初めてスーパーボールに参入したインターネット会社はなかった。
ちなみに、今年のE*TradeのCMは、倒産したドットコムをゴーストタウンに見立て、そこを訪れた猿がさめざめと泣くというもので、大いに笑った。3年連続して広告を打ったMonster.com
と HotJobs.comは、オンラインジョブマーケットの一、二を争っている。Monster.comは、国際ヘッドハンティング企業TMP
Worldwideの子会社で、このスーパーボールをかわきりに、これから20000万ドルの広告キャンペーンを展開する予定だ。
MonsterやHotJobsはインターネットビジネスだが、ドットコムの不振があっても好景気を維持している。
それは、当然だ。なぜならば、2001年1月だけでもインターネット関連会社は13,000人の従業員を解雇した。
しかしこれは、インターネットビジネスに限ったことではない。米経済成長の減速は、オールドエコノミーをも含んでいる。米国の景気は低迷しはじめ、失業率は高くなってきている。失業者は新しい職場を探す、したがってhotjobs,
kforce and
monsterのようなオンラインジョブマーケットは繁盛する。今年に入ってからも、1月11日にゲートウェー、ノーテルネットワークはそれぞれ3〜4,000人の解雇を明らかにした。またCNN.com
によると、ヒューレットパッカードは1,700人を解雇する計画を立てるところらしい。 その他にも、AOL Time Warner は2,000人, ジレットは
2,700人, ゼロックスは5,200人, ワールプール6,300人, サラリーは 7,000人, ボーイングは 8,000人,ルーセントは
10,000, ワールドコムは 11,550人, ジェネラルモータズ15,000人、そしてダイムラークライスラーは
約26,000人以上を削減するなど枚挙にいとまがない。
失業した場合、現在では様々な形で就職活動が行える。就職時期まで待つことは時代遅れで、非活動的だ。例えば1)履歴書を大量に書いて郵送する。この場合あなたはイニシアティブをとることができるが、極めて非効率的で、高くつく。2)インターネットのジョブ・ボードに自分のCVを貼り付ける。これはITを生かしてはいるが、消極的過ぎる。3)インターネット上で無作為に大量の自分のCVと紹介状を添付して送信する。積極性はあるが知性がない。容易で安いが、効率性もない。4)インターネット上を検探しながら面白そうな企業の求人にメールで応募する。悪い方法ではないが、今日のインターネット時代では誰でも簡単に行えるので、企業に送信される履歴書の数は膨大だ。
ドットコムブームの真っ只中では、従業員はストックオプションの夢を見ることに忙しすぎて、転職活動の必要はなかった。またヘッドハンターが、電話で新しい職場を提供してくれることも少なくなかった。今はそのブームも過去のものとなり、人々は改めて自分の頭を使ったジョブハンティングをしなくてはならなくなった。この10年間で就職活動は大きく変化を遂げた。先ほども触れたように、今では誰もが大量の履歴書を瞬時に送ることができる。大した努力も能力も要せず、やる気がなくても簡単に就職活動ができるようになった。誰もが気楽に「とりあえず送ってみようか」という気分で応募する。このオンライン就職活動はポピュラーになりすぎ、企業側は大量の応募者の対処に頭を痛めている。
想像してみて欲しい。あなたは人事係で人を探している。求人をインターネットに出したところ、毎日何万もの履歴書が届く。どうするか。容易に、早く選抜できるような技術が欲しいだろう。
実際に、履歴書の洪水をロボットやエージェントを用いて捌いている企業も少なくない。受付ロボットが、すぐに「受け付けました」との返事をし、履歴書は自動的にキーワード検索にかけられ機械的に抜粋される。例えば、3年以上の職務経験が条件ならば、職務経験2年のあなたの貴重な才能やポテンシャルは何の意味をも持たない。このような状況下では、個人独特のスキル、ユニークな能力や経験、などは無視される可能性が非常に高い。
オンラインジョブ検索は有効であるが、効率の良すぎるツールだ。ヤンケロビッチパートナーの調査によると、デジタル履歴書の40%は、まるでブラックホールに送られるようだという。闇に吸い込まれて行くだけで、何の音沙汰もない。実際、オンラインコンタクトによって就職が決まるのは全体の10パーセントに過ぎない。経営者はフェース・トゥー・フェース・ミーティングによる人事の判断を望んでいるようだ。なぜならば、その時間によって人間関係が創造され、人をより深く知ることができるからだ。
ビジネスにおいて人間関係は、極めて重視される。コンサルティング会社でさえも、その社内教育には服装、レトリック、自信の持ち方、握手の仕方、マナー全般などが含まれる。全ては、よりよい人間関係を築くためだ。この関係性はオンラインリクルーティングにおいても重要になっている。IBM,
Eli Lilly, Electronic Arts, McKinsey, BCG や KPMG
は、インタラクティブなホームページによって就職活動前後から、就職希望者との情報交換を促進する仕組みを採用している。就職活動者が企業についての情報を簡単に入手でき、企業は応募者に関する情報を徐々に得ることができる。そしてそこから、関係性も生み出される。しかし、このような技術は、いまだ改善の余地が残っている。先月、私にリクルートメント・パーティーの招待状が送信されてきた。ボストンで開かれたこのパーティーには参加できなかったが、パーティーを開くこと、オーディオ付の招待状のスタイルなどによって、この企業を少し窺い知ることができた。
前にも触れたが、今でも90パーセントが従来どおりのオフラインコンタクトで就職する。その最も成功率の高い手順は、電話連絡、約束の取り付け、面接というものだ。求人広告を見たらまず電話をかけてみるかもしれないが、知り合いがいれば電話しやすいだろう。この場合、直接の知り合いではなく、友人の友人でも構わない。
就職を助けてくれる人と出会うにはOB会、人間ネットワーク、スポーツクラブ、近隣などがある。出会いの瞬間は極めて大切だが、人と人の関係は時間が立つと深くなる。したがって、人間関係を結ぶインターラクションを早く起こし、それを長く維持することが就職への「タッチダウン」を成功させるための秘訣だ。このように新経済においても保守的な活動が就職や転職には不可欠だ。しかし、新たな技術を用いることにより時空間を越え、自分が最も望む就職先を、誰もが容易に見つけられるようになったことは、真に革新的だ。これによって、全世界へのタッチダウンが可能である。
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