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■北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手パトリック・ラインメラ氏
■プロフィール
ボッコニ大学(ミラノ)、ケルン大学大学院1990年MBA。ミラノにおける戦略コンサルティング会社を経て、ケルン大学経営学部1995年Ph.D.取得。一橋大学商学部研究科・産業経営研究施設客員研究員後、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助手、現在に至る。University
Cattaneo CastellanzaにVisiting Professor。主な著書はProduct Semantics、Marketing Trends
in Japan,「マーケティング革新の時代-製品開発革新」有斐閣1999年(15章)。論文等はEuropean Management Journal,
Journal of Management and Governance、Journal of Design Theory,
情報系,デザインニュース、JIDPO,日経デザインに掲載。
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All things are ready,if our minds be so.
Henry V,
Shakespeare
■バーチャル・クローズ:現実の継続的視覚化に向けて
今日、2000年11月6日は特別な日だ。これを書き始めたからではなく、米国の次期大統領が選挙によって選ばれる日だからだ。サンフランシスコ、今は午後9時すぎ。全国で投票が終了し、すべての州で集計が進められている。先程、近くの店で買い物をしたときに数人の男が、テレビの選挙速報をまるでサスペンス映画のように楽しみながら、誰が新しい大統領になるかを賭けているのを見かけた。
大統領選の準備は2年も前からスタートする。特に今回の選挙は史上最大で、その費用は世界記録を更新した。選挙戦中に世論調査は、刻々と変化していく国民の意見や支持を明らかにし大々的に報道された。そして、このような世論調査の結果自体が選挙を戦う上での有効な材料として利用された。
米国では選挙戦のテレビ討論は、極めて重要だといわれている。その準備はかなり細かいところまで行われ、討論の内容、受け答えはもちろんのこと、スーツ、シャツ、ネクタイの色から、身振り・手振りまでこと細かく検討される。なぜならば、テレビ討論ではそのようなささいな事柄が国民の支持を大きく左右するからだ。
1991年にブッシュ(父)は、クリントンとのTV討論中に一度腕時計をチラリと見た。いつまで議論が続くか気になったのだろう。この一瞬の行為が視覚者(国民)に不快感をもたらし、クリントンを優位に立たせた。今回、3回行われたテレビ討論前後の世論調査の結果は、国民の気持ちの変化を明確にしブッシュとゴアの作戦に大きく影響を与えた。
世論調査は、電話で「投票日まではあと何週間だが、今日が選挙だったら誰に投票しますか。」などという形で行われる。これによって将来における決断をシミュレーションし明日の選挙結果を事前に予測、その結果(仮終了)が今日の選挙戦に影響を与える。未来は現在に影響を与える。言いかえれば世論調査は選挙をシミュレーションし、バーチャルに終了させることだ。
一方、産業界ではバーチャル・クローズ(仮終了)が、情報技術戦略における重要な課題となっている。仮終了が注目を浴びている理由の一つは、シスコシステムの社長ジョン・チャンバースが「仮終了は、シスコの重要な成功要因だ」と述べているからだ。シスコは情報技術を受注、サプライ・チェーン・マネジメント、マーケティング、販売、サービス等にいかし、ITベースのスピード化によって財務・会計システムの報告がバーチャル・クローズができるようになった。
販売からコストまでの状況を毎時間ごとに報告するが、加えて終日の結果についても行われる。さらに、組織内の経営支援のために、貸借対照表(バランスシート)所得報告等を毎月作成する。これは他社の4倍に相当する。シスコ社長曰く、「当社において仮終了はいつでも可能であり、明確にされた純益は経営において有効な情報だ。」
今日は11月15日。米国では、まだ次期大統領が決まらない。極史上に希にみる接戦らしい。機械によるラフな集計や分かりづらい投票表紙のデザインなどが問題視されている。有名なTVコメディアン、ジャイ・リーノは選挙のカギを握るフロリダを「連邦バナナ共和国フロリダ」を呼んでいる。
11月23日。裁判の判決により手作業で票を数え直す郡がでてきた。インターネット時代の大統領戦でもパンチカードで投票しているのには驚かされる。今回のことで米国の選挙制度についての議論が活発になっている。再投票してやり直すというものから、全てを手作業で集計するべきだ、またはインターネットや情報技術をベースにe-投票をすべきだ、まで意見は多様だ。それでは国はシスコのような企業の情報技術戦略を参考にして見てはどうだろうか。
インターネットによって投票が行われれば、いつでもどこでもその正確な集計結果が容易に得られるだろう。さらに、e-投票によって瞬時にリアルタイム選挙を行えるかもしれない。
しかし、最先端技術によって投票を行った場合、デジタルデバイド(情報技術の活用能力の格差)がその結果を決める可能性が高い。今回の選挙でパームビーチュの市民が分かりにくい投票紙のデザインに困惑されたことからもわかるように、インターネットによって投票する場合それによって生じるあらゆる意味でのデジタルデバイドを越えるためのデザインが不可欠である。
シスコが顧客や全社員が容易に自社のネットワークをいかせるように工夫を重ねたのと同様に、国は全有権者が投票できる情報技術をデザインしなければならない。しかしそのためには企業のベストプラクティスをただ単に模倣するだけでは不十分であり、より深い考察と分析が必要である。
今回の選挙戦の決着は、まだまだ長引きそうだ。今日は11月27日。もう選挙結果を待っていられない。原稿の締め切りは3週間まえの投票日だった。
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