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■愛知学院大学 経営学部 専任講師 島本 実
■プロフィール
1969年、生まれ
一橋大学社会学部卒業、同大学院商学研究科修士課程、同博士課程修了
一橋大学博士(商学)
1999年より愛知学院大学 経営学部 専任講師(現職)
研究テーマは技術政策論、産官学プロジェクト論
主な論文は「革新官僚の台頭」『ビジネスレビュー』第45巻第4号、「YS-11プロジェクトの組織デザイン」『一橋論叢』第121巻第5号など |
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■「それ(IT)」が問題だ
「それ」に最初に出会ったのは、いつの頃だったでしょうか。新聞やテレビでも、あっと言う間に「それ」は増殖し、もう最近はどこもかしこも「それ」ばっかりです。産業革命に並ぶ空前絶後のイノベーション、企業経営の救世主というような扱いで語られるようになった「それ」は、グローバル化、情報化の時代の中で、社会を大きく変化させるもののような気にさせてくれます。
しかしながら、ある言葉が、その実態はなんだかわからないけれどもキーワードとして一人歩きするようになると、私はなんとなく斜にかまえてしまうのですよ。「それ」が言葉としていつ、どのように普及し始めたかを確認するために、日経四紙で取り上げられた時期と回数を調べてみました。
「IT」・「情報技術」で検索をしてみると、90年代前半は、一年でわずか2つか3つくらいの記事しかありません。
しかし、記事は96年くらいから増えはじめ、この年に24件、97年には91件、98年には141件になりました。その後、99年には675件。今年に入ってからは8月現在までになんと5223件に達しています。大ブレークです。より詳しく見てみると、99年の前半期は毎月20?30件というところでしたが、10月以降は毎月100件を超えるようになり、今年に入ってからは1月が381件、2月が349件、3月が581件、4月が703件、5月が773件、6月が937件、7月が1114件とうなぎのぼりです。なるほど、これならやっぱり、最近どこもかしこも「それ」ばっかりという状態になったのもうなずけます。
しかしながら冷静に考えてみれば、これはほんの最近のフィーバーであるということには気をつけねばなりません。これまでにも情報・通信技術が進歩するたびに、経営が飛躍的に変化するだろうことが期待されてきました。
古くはMIS、SISから、POS、CALS、それに昨今のIT。たしかにこれらは経営に多大なメリットをもたらしました。しかしながら、常にブームが一段落して気づくことは、入手可能な情報が増えれば、意味ある情報を上手に選択し、利用する作業もまたいっそう困難になるということでした。早くも89年に、今井賢一一橋大学教授は以下のように語っています。「最近、世界的に、IT(インフォメーション・テクノロジー)という名称で定着しつつある情報通信系の技術革新が、経済社会の文脈をとりかえる『総称的な技術』であることは広く認識されるようになった。」しかし今井教授は加えて、こうした技術革新の中で重要なことは、多様な人間が相互作用の場を作りつつ、入手した情報を解釈し、仕事の新しい文脈を作っていくことであると論じています。実に卓見です。
情報技術の進歩を、効率的な経営に活用できるかどうかは、単にパソコンやネットを導入することで終わりなのではなく、実は、情報を入手し、選択し、解釈し、加工し、発信する経営組織、ならびに企業間ネットワークをいかに作るかにかかっているのです。
これは企業にとって、膨大な情報の中で自社にとって真に意味ある情報を選択し、体系(知識)として発信する能力が問われているということです。
IT化を進めるとは、あふれる情報の海に飛び込むこと。そこで溺死しないためには、まずは何よりも有意味な情報を選択し、再構成した上で発信できる組織的基盤を整えることが不可欠なのです。
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株式会社 アイ・イーシー
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